手を引かれて数分間私は顔を熱くさせたまま、ぐるぐる混乱していたが、ジェットコースターの乗り口に辿り着くと、そんなことは楽しみな気持ちに塗り替えられた。

「わぁ! リクオ君、ジェットコースター凄く早そうー! 楽しみだね!!」
「そうだね、舞香ちゃんはそんなにジャットコースターが好きなんだ?」
「そそそ! あの風を切る感じが気持ちいいの!」
「あははっ、そうなんだ」

待ってる人の列の後ろに並びながら、2人でそんな雑談をしていると、乗る順番が来た。ちらりと前の方を見るともう誰かが座っていたので、内心がっくり来る。

一番前に乗りたかったなぁ……

そう思っていると、並んでいる人をジェットコースターの席へと案内する係員さんが、真ん中を指さしながら私達に向かって口を開いた。

「君たちカップルは、あの人達の後ろへどうぞ」

私とリクオ君はキョトンとする。

「カップル? ん? 後ろの人達に言ってる?」

ぐりんと後ろに顔を向けるが、家族連れの人しかいない。
と、隣に居るリクオ君が、慌てたような顔をしつつその案内する人に首を振った。

「い、いや、ボク達まだカップルじゃないですから!」
「ああ、手を繋いでるから、カップルかと思ったよ。兄妹だったんならすまないね。ほら、乗った、乗った」

案内する人の言葉に、はっ! と自分の右手を見下ろす。何故か手はまだ繋がれたままだった。

ジャットコースターに乗る事が楽しみで、気が付かなかった!!

「う、わわわ、リクオ君、手、手ー!」
「ご、ごめんっ! 舞香ちゃん!」

リクオ君も無意識に私の手を握っていたようだった。
ぱっと離され、なんだか温もりが無くなって、寂しいような感じがしたけど、きっと気の所為!
気を取り直して、リクオ君と並びジャットコースターに乗ると、そのスピード感に夢中になった。

「次はリクオ君の番! 何の乗りたい?」
「あ。ボク実は、これに乗りたいんだ」

そう2人で話しながら、数個の乗り物を制覇し終わると、飲み物を買ってベンチで一休みをする。
コーラーを飲んで、あー面白かった! と満足していると、急に右隣に座っていたリクオ君が「舞香ちゃん」と声を掛けて来た。

「ん? 何ー? リクオ君。もしかしてトイレ? いいよ。待ってるよー」
「そうじゃなくて、その……、この前夜のボクが聞いちゃったんだけど……」
「うん?」

誰に何を聞いたんだろう?

なんだか言い辛そうなリクオ君に、私は首を傾げながらストローでコーラーを飲む。

「ボ、ボクを、好きだって、ホント!?」

ブッフーッ

私は盛大に飲んでいたコーラーを噴き出した。

「わっ、大丈夫!? 舞香ちゃん!?」
「ゲホッゴホッゲホッ」

気道に入ったのか、咳が出続ける。

ちょ、ちょ、くる、し……!!
「ゲホッゴホッゲホッゴホッ」

咳が治まって来ると、背中を摩る感触がして来た。
リクオ君が擦ってくれてるようだ。

「ぜぇ……はぁ……、し、死ぬかと思った……」
「舞香ちゃん、本当に平気? びっくりさせてごめんね?」
「はぁ……、ホントにびっくりしたよ! うー、リクオ君、そ、それって誰から聞いたの?」

私はハンカチをポーチから取り出すと、口元を拭いながら聞く。
リクオ君は視線を逸らし、頬をぽり、と掻くと「舞香ちゃん」と答えた。

え? え? え? 私!?

「私、誰にも言ってないよ!?」

あ。しまった! つい心の声が!!
これじゃあ、肯定してるようなものー!!

思わず口を押えると、リクオ君は、バツが悪そうに口を開いた。

「ごめん、夜のボクが、舞香ちゃんの部屋の外で聞いちゃったんだ……」
「え! え!? 私の部屋の外にリクオ君、居たのー!?」
「う、うん……」

ちょ、ちょっと待って!? 私そんな事言った!?
いーやー! 恥ずかしいっっ!

急激に顔へ熱が籠る。

「い、いや、あの、間違いって言うか、その、うん、リクオ君の聞き間違い! 絶対、聞き間違いー!」
「え、……そ、そうなんだ、勘違いしてごめん」

なんだか肩を落とした後、無理矢理笑顔で笑っているようなリクオ君。
なんだか、悪い事をしたみたいで、胸がちくちくする。

あー、うー、だって、好きになっても、未来のリクオ君は氷麗ちゃんを選ぶし……っ

なんだか、凄く泣きたくなった。

うー、もう!

その気持ちを振りきるように首を振ると、両頬をペンッと叩いた私は、回転する軸を中心に円形に複数のブランコが吊り下げられた空中ブランコを指さした。

「この話しはもうお終い! 今度はあれ! 空中ブランコ乗ろ! 空中を浮いてすごく楽しそうだよ!」
「あ、うん。もうちょっと聞きたい事があったんだけど、また今度でいっか……」

リクオ君は私の言葉に頷くと、立ち上がる。

「行こう! 舞香ちゃん」
「うん!」

リクオ君から差し出された手に無意識に手を重ねた私は、また他の人からの指摘を受けるまで手を繋いでいた事に気付かなかった。








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