邪魅の事件から数日後、学校はすぐに夏休みに入った。
宿題も山ほど出されたが、ゆっくりやればいいよねー、とまだ一つも手を付けてない。
外の日差しが強い中、私はクーラーを効かせた自分の部屋でゆっくりくつろいでいた。
お小遣いで買った少年漫画をベッドの上で、腹ばいになりながら読む。
少女趣味のお母さんに見つかったら、絶対取り上げられる代物だ。

「おぉ! ここで、ここで!? え? 続き!?」

そう漫画に突っ込んでいると、玄関のチャイムが鳴った。
と、数分してお母さんから呼ばれたので、読んでいた少年漫画をベッドの下に隠し、階段を降りる。

「どしたのー? お母さん?」

そう問いながら、玄関へと向かうと、そこには憮然としたお母さんと、リクオ君、氷麗ちゃん、島君が居た。

……っ!?

リクオ君の姿に胸がざわりと騒ぐ。
でも、それを意識的に無視して一つ息を吸うと、私は首を傾げた。

あ、れ? リクオ君とつららちゃんがいつも一緒に居るのは判るけど、島君も一緒に居るなんてすごく珍しい。

と、隣に佇んでいるお母さんが私に視線を向けると不機嫌丸出しの声で口を開いた。

「舞香。こやつら、遊びに誘いに来たらしいぞえ」

しかし、お母さんの不機嫌さなど気にしてないように、赤い半袖のTシャツに黒い半ズボン姿のリクオ君は、人好きするような明るい笑顔を私に向けた。

「遊園地のフリーパスを貰ったんだけど、舞香ちゃんも行かないかな、と思って誘いに来たんだ」
!? 遊園地!!
「楽しそう! 行く、行く! ……あ。」

思わずリクオ君に行くと言ってしまったが、傍に居るお母さんの存在を思い出す。
私はそーっとお母さんを見た。
お母さんは無言で腕を組み、目には剣呑な光を浮かばせている。
なんだか不機嫌MAXな感じだ。

ううっ、なんで不機嫌!?

私は怒りを宥めるように、そっとお母さんに声を掛けた。

「お母さん、遊園地行っていい?」
「ダメじゃ! またあの時の二の舞になったらどうするのじゃ!」
「だから、誤解だって! もう、お父さんに言いつけるから!」

そう言うととたんに弱弱しい声になるお母さん。

「ぬ………、し、仕方ないじゃろう。舞香の事が心配で……」

よし、もう一押し!

続きを言おうとすると、リクオ君が突然口を開いた。

「舞香ちゃんのお母さん、大丈夫。ボクが責任持って送ります!」
「それが信用ならぬのじゃ!」
「え……っ!?」

吃驚するリクオ君。その斜め後ろに居た氷麗ちゃんが、聞き捨てならない、という風に怒りの声を上げた。

「ちょっと! 若を愚弄する気ですか!? いくら雷獣でも許せません!」
「雷獣? 何っすかそれ?」
「わー、わー、島君、何でもないよ! ちょっと氷麗! 黙ってて!」

氷麗ちゃんの言葉を聞きキョトンと目を瞠る島君。
それに両手を振り慌てるリクオ君がなんだか、大変そうに見えてしまった。
私は、お小遣いよ、さようなら……、と心の中で涙を流しつつ、最後の切り札をお母さんに提示した。

「お母さん、遊園地で可愛い小物見つけたら、お土産に買って帰るよ。それでも、ダメ?」

じーっと見つめ続けると、可愛い小物に心を揺り動かされたのか、しぶしぶながらお母さんは頷いた。

「フリル多めの物じゃぞ」
やった!
「じゃあ皆、ちょっと待ってて!」

私は「物に釣られてる!?」と驚く3人に向かってそう言うと、階段を駆け上がり、服を着替えた。
お母さんが居るから、ズボンがはけないのが残念だが仕方ない。

小物を身につけると、私は玄関で待っていた3人と合流した。
そして、ウキウキ気分で遊園地に向かった。

うわー、楽しみ、楽しみー!








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