大きな鍋でカニを茹でると、カニを剥き肉を取り出す。

「お母さん、このミソはどうするのー?」
「あんかけごはんの中に入れるでの、別に分けておくのじゃ」
「はーい」

一生懸命カニを剥いていると、玄関のドアが開く音がする。それと共にお父さんの声が聞こえた。

「ただいま、今、帰ったよ」
「背の君!!!」

お母さんはあっと言う間にキッチンから飛び出して行った。

うーん、いつまで経ってもラブラブだ。

まあ、いつもの事なので気にせずカニ剥きを続けていると、ダイニングキッチンの入口からお父さんとお母さんが揃って入って来た。

「お帰りー、お父さん」

お父さんは私の姿を見ると、柔らかく笑った。

「ただいま、舞香。旅行は楽しかったかい?」
楽しい………?

私は菅沼さんの家であった事を思い出す。

あれ? 遊んだ記憶が、ない?

「あー……ははは、普通だったかな?」

思わず苦笑すると、お母さんがハッという顔をし、お父さんに向かって口を開いた。

「背の君、聞いてたもれ! この旅行であのわっぱが舞香を襲いおったのじゃ!」
「ちょ、お母さん、誤解ーーっ!」

お父さんは、困ったような顔をすると、首を傾げた。

「それは、穏やかな話しじゃないね。本当かい? 舞香」
「ううん! お母さんの勘違い! ただからかわれただけだよ!」

私の言葉を聞くとお父さんは、また柔らかく笑った。

「そうなのかい。うん、芙蓉、舞香の話しをきちんと聞いてあげないとダメだよ?」
「しかしじゃな!」

なおも言い募ろうとするお母さんに、お父さんは腰を少し屈めるとその額へ唇を落とした。

………。こら。お父さん。子供の前でお母さんにキスするなんて、どこの外国映画!?

半眼で2人を見ていると、徐々に2人の世界へと突入して行った。

「芙蓉。我が子を信じてあげようね」

お母さんは、頬を赤に染めながら、お父さんの胸元を人差指でぐりぐりとする。

「せ、背の君がそういうなら仕方ないぞえ」
「ふふ、芙蓉。可愛いね。愛してるよ」
「背の君、妾もじゃ……」

抱き締めあい、「僕の方が愛してる」とか「妾の方じゃ」と不可視の大きなハートが何個も飛び交い始めた。
だめだ。完璧に私の存在を忘れ去ってる。
このまま、両親のいちゃいちゃを見続けているのも、なんだか精神的に来るものがあるので、エプロンを外すとダイニングキッチンを後にした。


自分の部屋に戻るとベッドにボフンと飛び込む。

「はー、自分の部屋って落ち着くー」

うつぶせに寝転がっていると、どっと疲労感が襲って来る。
昨日は眠る時間無かったから、疲労が取れてないのだろう。

「ちょっとだけ、寝よっかな」

お風呂も入らないといけないし、ご飯もまだだ。
でも、まだいちゃいちゃしてると思う。

「はぁ、いつまでもラブラブっていうのも、問題だよねー」

て、言うか、あの両親の血を引いてる私も、結婚して子供に引かれるほど、ラブラブ生活するのかな?
相手はやっぱり今好きな、清継君?

清継君との結婚生活を思い描こうとすると、何故か夜リクオ君に抱き締められる自分の姿が浮かんだ。

「って、えぇええ!? なんでそこでリクオ君を想像するの! 私ー!」

何故かすごく恥ずかしくて、ベッドの上をごろごろ転げ回る。
しかし、はた、と原作を思い出しピタッと動きを止めた。
そして、起き上がり私はまた自分に言い聞かせる。

「うー、リクオ君が最終的に好きになるのは、氷麗ちゃん。リクオ君は氷麗ちゃんが好き。私は好きになっちゃダメ、ダメ」

私が好きなのは、清継君!

でもなぜかズキズキと疼き出す胸の痛みに、私は拳を押し当て、目をぎゅっと瞑りながら耐えた。

……何故かその言葉を部屋の外に居た夜リクオ君に聞かれているなんて、思ってもみなかった。








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