後ろを振り返ると腰まである長い黒髪を持ち、顔へ縦長の呪符を何枚も張り付け、着物を着た男の人がおののく菅沼さんと向かい合う様にして立っていた。
身長は2mくらいもある長身だ。
それを見た夜リクオ君は、菅沼さんに向かって口を開いた。

「そいつはあんたを守ってたんだ。さっきだってヤツらを懲らしめるのに手ぇかしてくれたしな……」

夜リクオ君と一緒に戦ったんだ……。
よっぽどあの悪徳神主達の所業を腹に据えかねてたんだなー……

と、夜リクオ君のその言葉に菅沼さんは驚きに目を見開いた。

「どうして……? 私達一族を恨んでいたんじゃないの……?」
「あんたは、自分を殺した妻の子孫だが、主君の子孫でもある。ずっと主君の血筋を守って来たんだ。忠義の塊だぜ……。こいつは」

無言で菅沼さんを見下ろす邪魅に、菅沼さんは、おずおずと口を開く。

「あの……、誤解してて、ごめんなさい。ずっと守ってくれて、ありがとう……」
「……」

邪魅は菅沼さんにお礼を言われたが、何も反応せず、ただじっと菅沼さんを顔に貼られた呪符の中から見つめていた。

ん? 何も反応を返さないって事は、邪魅って話せない?

そう心の中で首傾げていると、夜リクオ君が私の右肩に軽く手を置いた。そして、邪魅に向かってきり出した。

「邪魅……。見事な忠誠心だぜ」

と、邪魅はこちらへと振り向き、男か女か判らないような声で言葉を発した。

「どこの者かは知らぬが……、この御恩はーー」
って、話せたの!?

心の中で突っ込んでいると、原作通り、夜リクオ君と邪魅は、焼け落ちた拝殿の上で、杯を交わす流れとなった。
杯を交わし終えると、夜リクオ君は切れ長の目をこちらに向ける。

「舞香もオレと杯を交わさねぇか……?」

私はその危険な誘いに、ぶんぶんっと勢いよく頭を横に振った。

「私は人間!」
「いいじゃねぇか。お袋さんは雷獣だしな……」

不敵ににっと笑うリクオ君に、不覚にもまた心臓がドキドキと早鐘を打ち始める。

だめっ! リクオ君に心惹かれたら、ダメ!
私の好きなのは、清継君!

目をぎゅっと閉じ、ドキドキを振り払うように再び首を横に振ると、私は口を開いた。

「自由に変身できないし。何より、戦いよりも平和に暮らしたいの!」
「……、今はいいか。いずれ、な」
「いやいや、いずれも何も、そんな時なんて来ないったら、来ない!」

私は、リクオ君から目を逸らし、深く溜息をついた。

はぁ……どうして勧誘なんかされるんだろう?
いつも、私をからかっている様子のリクオ君。はっ!? もしかして、新手のからかう為の手口!?

そう結論付けると、私は前触れもなく、夜リクオ君に向かってビシッと指さした。

「いつかお返しするから!」

リクオ君は一瞬きょとんと不思議そうな顔をするが、それはすぐに掻き消え口角を持ち上げると、再びにっと笑った。

「……、期待して待ってるぜ」

その自信ありげな笑みに早々と自分が後悔しそうな気がしてきたが、気のせいにした。

よし、がんばろう!


と、辺りが薄っすらと白んで来た。
もう少ししたら、日が昇る。

結局、徹夜してしまったよ……。うー、自覚すると眠気がどっと襲って来る。

「ふぁ……」

小さく欠伸を漏らすと、突然身体が宙に浮き、足が空中でブラブラ状態になる。お腹には、またしても固い骨の感触。

って、また夜リクオ君の肩に担ぎあげられてるー!?

「ちょっ、リクオ君!?」
「さっさと帰るぜ……。眠てぇんだろ?」
「一人で歩けるー!」
「くっ……、別にいーじゃねぇか」

面白そうに笑う夜リクオ君の声が耳に入って来る。

いやいや、面白そうという理由だけで、俵担ぎしないでー!

そう心の中で叫んでいると、隣に邪魅と一緒に歩いていた菅沼さんが、くすっと笑った。

「2人共、仲いいのね」
「ごか「だろ?」」

私の言葉を遮るように、言葉を被せて来た夜リクオ君。

なんで、私の言葉を遮るの、リクオ君!
いい加減、おろしてー!


夜か明けて、朝ご飯を頂くと、私達は菅沼さんの家を後にした。
おみやげとして貰ったのは、発泡スチロールに入れられていても、未だ足をウゴウゴ動かしているカニだった。

肉料理もおいしいけど、カニもなかなかおいしいんだよね!
食べるのが、楽しみー!

と、浮かれた気持ちで足を動かしていたら、後ろからポンッと肩を叩かれた。
誰? と思って振り返ってみると、そこには眼鏡を掛けた人間姿のリクオ君が居た。
リクオ君は心配そうに口を開く。

「舞香ちゃん。朝まで時間が短かったけど、ちゃんと寝たの?」
「あははー、おかげ様で全く寝た気がしないよ、リクオ君」
「え? 大丈夫?」

と眉を顰めるリクオ君を、私はじとっと恨みがましい目で見た。

「リクオ君……。降ろしてって言ったのに……」
「え? いや、ははは……。つい」

頭に手を当て私から目を逸らすと、いっけね、やりすぎたかな?と零すリクオ君。
ど、どういうこと?と聞こうとすると、カナちゃんがリクオ君の後ろから、ひょこっと顔を出した。

「何? 何のこと話してるの?」
「いや、なんでもないよ!カナちゃん!」

手を横にブンブン振るリクオ君に、疑わし気な視線を向けるカナちゃん。

やっぱり、カナちゃん、リクオ君の事好きだから、リクオ君の動向が気になるんだろうなぁ。

そう思うと何故か、胸の中がチクチクした。

好きなのは、清継君、と決めてるのに、なんでこんなに胸が痛いんだろう?








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