爪がまた変化した!?

でも、今はそれに変化した事は、私にとって具合の良いタイミングだ。
私は黒服の男達を牽制するように右手を構えた。

「この女、なんだ!?」
「化け物か!?」

男達は足を止め、構えた私の右手から伸びた鋭い爪を凝視する。
と、背中の方から菅沼さんの「ど、どうしたの?」と心配したような声が聞こえて来た。
私は黒服の男達を精一杯睨みながら、「早く、逃げて!」と短く答える。
しかし、菅沼さんが背中の後ろから動く気配はない。
心の中は焦りで一杯になる。

鋭い爪を見せて牽制していても、この人数で一斉に飛び掛かられたら、戦う術なんて一つも持っていない私は対抗できない。
右腕を取り押さえられたらお終いだ。

どうしよう、どうしよう……っ! お父さん、お母さん!……、リクオ君! 

心の中で焦り焦っていると、ふいにどこからか夜リクオ君の低く艶やかな声が聞こえて来た。

「邪魅払いとは笑わせる……。邪魅騒動こそ自作自演の猿芝居。外道ども……、人を惑わせるお前達こそ、”悪鬼なろべし”だ」

私はその声にほっと胸が軽くなる。
きっと原作道りこいつらをやっつけてくれる。
でも、ここに居たら必ず乱闘に巻き込まれる。

そう思った私は、右手を菅沼さんの視界から隠しながら、左手で菅沼さんの手首を取り、外へ向かって走り出した。
今度は抵抗も無く、私にひっぱられるまま、菅沼さんはついて来る。
と、後ろから野太い男の声が聞こえると共に、数人の足音が私達を追いかけて来た。

「追え! 追え! 逃がすな!」
「待ちやがれ! このアマ!」

「しつこい!」

拝殿へと繋がる石畳の上で足を止めると、私は追いかけて来た黒服の男達に向き直った。
そして再び菅沼さんを背中の裏に隠すと、無意識のうちに爪全体に力を漲らせる。
そして、本能の赴くまま、下から掬いあげるように腕を上へとスウィングさせた。
するとそこから渦巻く風が生まれ、周りの石畳を持ち上げながら、黒服の男達へと向かって行った。

「風雷!」

頭の中にふいに浮かんだ言葉を紡ぐと、渦巻く風に巻き上げられた男達へ大きな雷が落ちる。

「ふぅ……、……あれ?」

私、今、何やった?

「うぐぁ……っ」
「ぐふっ……っっ」

雷によって黒焦げになった男達が地面へと落ちて来る中、私は自分の右手を見る。

今のなんだったんだろ?

無意識に身体が動いたと思ったら、黒服の男達へ攻撃していた。
なんで爪が妖怪化しただけなのに、妖怪の力が出たんだろう?
今が夜だから?

「うーん……?」

お母さんに聞いてみた方がいいかな?

と思っていると、突然拝殿の中から火の手が上がった。
それは見る間に木造の拝殿を覆いつくしていく。
そして、私達が出て来た所から、炎を背に夜リクオ君が刀を肩に担ぎながらゆっくりと姿を現した。
夜リクオ君は、黒焦げになって倒れている黒服の男達を横目で見ながら、こちらへと歩いて来た。

「舞香がやったのかい?」
「えーっと、うん、多分!」
「へぇ……人間の姿でも、案外やるじゃねぇか……」

夜リクオ君は片方の口角を上げ、私を見下ろす。

「いやいや。無意識、無意識! もう一度やれって言われても出来ないから!」

首を横に振りながら慌ててリクオ君に応えていると、ふいに後ろから「ひっ!」と小さな悲鳴が上がった。

ん? 菅沼さん?
どしたの?







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