「そう言や舞香。妖怪にならねぇのか?」
「自在に変身できない。出来てたらしてる。そして速攻帰るよ!」
「帰さねぇよ」

ちょ、ちょ!? 何考えてんの!? リクオ君!!

心の中で叫んでいると、いつの間にか秀島神社の境内にたどり着いていた。
夜リクオ君は私を担いだまま、スタスタと拝殿へと向かう。

「ちょ、リクオ君!? 着いたから、降ろしてー!」

しかし、私の言葉に応えず、後ろに邪魅と菅沼さんを引き連れて大きな賽銭箱がある場所へと上った。
拝殿の中はオレンジ色の明かりが灯っていて、野太い男の人達の笑い声が洩れている。
夜リクオ君は「思ってた通りだぜ……」と不敵な表情を浮かべながら呟くと、後ろの菅沼さん達の方に視線を向けた。

「行くかい?」

待ってー! 菅沼さん、女の子! 女の子を突入させようとするなんてダメったら、ダメ!

「菅沼さん、ここで待ってよう!」

私は右手でぐっと拳を握り、目の前の菅沼さんに強く訴える。
が、菅沼さんはふるふると首を横に振った。
そして、キッと強い目で拝殿の扉を見ると「行くわ」と短く答えられた。

「いやいや、あぶないって!」
「ありがとう。でも、私知りたいの」
「ちょ、ちょ、」

菅沼さんの答えに狼狽えていると、夜リクオ君が口を開いた。

「舞香も心配なら、菅沼サンの傍についてりゃいいじゃねぇか」
「危ないとこ、行きたくない!」

はっ、つい、心の声が!

「舞香もこう言ってついて来るって言ってるし、頼むぜ。菅沼サン。邪魅」

私の言葉と反対の言葉を菅沼さんに伝える夜リクオ君。その口元はいたずらを企んでいるように口角を上げていた。

なっ!?
「え?」

きょとんと目を丸くする菅沼さん。
その間にリクオ君は口をパクパクしている私を肩から降ろすと、拝殿の仕切られた扉を音も無く開ける。
目の前には、黒服を着て人相の悪そうな男の人達が10数人ほど座り、下卑た笑い声を上げていた。
でも、誰も私達が入って来た事に気付かない。

「あの菅沼の家には、手こずったが今日で最後ですな。神主さん」
「まったくです。あの娘も今日貼った札が命取りになるとは、思わないでしょうなぁ」
「はっはっはっ、あの土地はラブホテル街にでもしやしょうか?」
「いいですなぁ……くっくっくっ」
「神主さんも悪だ……」
「お互いさまですよ、はーっはっはっはっ」

菅沼さんは、目の前で高笑いをする悪徳神主の姿に、怒りからか手を震わせた。
と、黒服の男の人達に混じり座っていたハセベというドレッドヘアの男が、何かに気付いたようにこちらを見た。
そして驚愕に目を見開く。

「ゲッ、お前は菅沼ん家の……っ!」

ハセベの声に、黒服の男たちの視線が、私達2人に集まる。
そう、夜リクオ君はいつの間にか姿を消していたのだ。

くうっ、こんな所に女の子2人放って行くなんて、100年の恋も覚めるよ!
リクオ君、好きじゃないけど!

そう思っただけなのに、胸がズキンと強く痛む。

「何!? なんで菅沼の娘がここに居る!?」
「なぜ、出られたんだ!?」

騒めく黒服の男達の間から、悪徳神主が柔和な笑顔を顔に張り付けながら、前に出て来た。

「品子ちゃん、ダメじゃないか。ちゃんと結界の中にいなきゃあ」

猫なで声で宥める様な口調の悪徳神主を菅沼さんは、キッと見据えた。

「聞いたわ! 全部! 騙していたのね!」
「そ、それは、誤解だよ。品子ちゃん」
「近寄るなー! あんた達ぐるだったのね! もう騙されないわ!」

菅沼さんは、伸ばしてきた悪徳神主の手をバシッと払いのける。
と、後ろに居た黒服の男達がいやらしそうな笑みを浮かべた。

「ばれちまったら、仕方ねぇよ、神主さん。捕まえて売っちまった方がいい」
「そうそう。2人共、磨けば売れっ子になりそうじゃん。ひっひっひっ」
「兄貴ぃ、捕まえたら、ちょっとくらい味見してもいいっすよね」

黒服の男達の言葉に、雲行きが怪しくなった事に気が付いた。

な、なに? 原作にこんな会話、あった?

なんだか、危険を感じ、私は隣に居た菅沼さんの腕を掴んだ。

「ちょっとまずいよ!菅沼さん、逃げよう!」
「待って、神主さんだけは許せない!」
「私達だけじゃ、どうにもならないって!」

腕を引いても踏み止まる菅沼さんの前に居た悪徳神主は、「そうだねぇ……」と俯いていた顔を上げる。
その顔は仮面を脱ぎ捨て、暗くおぞましい表情をしていた。

「知ってしまったなら仕方がない。集英建設さん、お願いしますよ」

そしてにやりと顔を歪ませる。
その言葉に黒服の男達が動き出した。こちらへ向かって。
私はとっさに菅沼さんの腕を強く引っ張ると、後ろに庇った。
そして目をぎゅっと閉じながら無意識に右腕を振った。

「来、るなーっ!」

すると、「グワッ」という呻き声が聞こえて来た。

ん?

そっと目を開くと前には、仰向けに倒れた黒服の男。胸の辺りが切り裂かれ、切り傷から血が流れていた。
そして振り上げた右手の指先には鋭い爪が光を放っていた。







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