タップタップと音をたてながら海辺に浮かぶ漁船の群れ。
神様はいませんでした。
うううっ
原作の通りになるなんて、恐ろしき強制力とでも言うんだろうか。
項垂れる私の隣で、いつの間にか水着に着替えた巻さんと鳥居さんが両手を地面に付け同じように項垂れていた。
そうだよね。ガックリ来るよね。
そして反対側の隣では、リクオ君とカナちゃんが呆然としたような声を出した。
「漁港だね」
「そうね。漁港だわ」
「あ、は、はははは……」
乾いた笑い声しか出せない。
そんな私の肩を諦めたような顔でぽんぽんと叩いてくれるリクオ君。
優しさが心に染みます。
心が暖かくなるようで……
ううっ、また好きになってしまう!
いやいや、私の好きなのは、清継君!
ブルブルと首を振っていると、突然、清継君が絹を裂くような悲鳴を上げた。
ん?
顔を上げるとそこには、巻さんと鳥居さんに詰め寄られ、襟首を絞められている清継君の姿があった。
「清継ーっ、あんたってヤツはー!」
「期待した私がバカだったよ!」
「このっこのっ!」
「ひーっ、やめてくれーっ!」
もっとやれ、と思った私は、悪くないと思う。
いや、清継君は好きだけど。
と、うつむいていた菅沼さんがクスッと笑った。
皆の視線が菅沼さんに集まる。
「みんな、ありがとう」
「「「へ?」」」
皆がきょとんとする中、菅沼さんは柔らかく笑みながら言葉を続けた。
「邪魅の出る家は、町の人からあまり良く思われてなくて……。そんな中、皆みたいな仲間がいるってことが、私本当に嬉しくて……。来てくれて本当にありがとう」
私は思わず「それ!」と菅沼さんを指差した。
「え?」
目を瞠る菅沼さんに構わず、私は言葉を続ける。
だって、この変な感じに耐えられなかったから。
「”邪魅の出る家は”って言ったよね?じゃあ、邪魅って何体も居るって事?」
「え?」
「なになに!? 邪魅って何体もいんの!?」
「うそー!」
巻さんと鳥居さんが反応する声を背に私は菅沼さんを見据えた。
菅沼さんはプルプルと小さく首を振る。
「何体居るかなんて…。判らないわ」
「私が変だな?って思ったのは、菅沼さん家に出る邪魅の理由。昔の小姓が藩主を憎んだから、直系に祟ってるって話しだよね?」
「え、ええ」
「じゃあ、別の家。今まで邪魅が出たって言われた家もそう?」
「それはちょっと判らないけど……」
「私はそうじゃないと思うんだ」
私が眉を顰めて言うと、巻さんと鳥居さんがぽんっと手を叩く。
「そーだよねー。確かにあの神主さんの言う事おかしいじゃん」
「そーだよそーだよ!」
と、清継君が目をキラリと光らせた。そして腕を上げて宣言する。
「確かに、君達の言う事も一理ある!じゃあ、もう一度神主さんに確かめに行こうじゃないか!」
「流石、清継!実行力あるー!」
「ハッハッハッ、それほどでもあるね!」
そして、私達は神社へとUターンしようと足を踏み出した。
が、目の前にチンピラみたいな人達が姿を現した。
ドレッドヘアの人が口を開く。
「よう菅沼のおじょうちゃん。探したぜ」