「邪魅!」

リクオ君がそのまま左手の廊下の奥へと駆け出した。
それと同時に島君に向かって指示を出す。

「島君、みんなを見てきて!」

島君は一瞬逡巡するが、「ハッ!及川さん!」と言って、すぐに踵を返すと女の子達が集まっている部屋へとダッシュをし、すぐに姿が見えなくなった。

どうして、そこで及川さんの名前が?

はて?と思っていると、隣でキョロキョロしていた清継君が「奴良君!そっちかい!?」とリクオ君の後を追って駆け出した。

「あ、私も」

私も思わず清継君を追った。

いや、だって一人でいると怖いし!

すると、先に角を曲がったリクオ君の必死な声が突然上がった。

「これ、違うっ!清継君、舞香ちゃん!みんなが危ないかもしれない!みんなのところに戻って!」

え?何が違うんだろう?

心の中で首をかしげていると、清継君はリクオ君の言葉にキキッと足を止め、目を煌めかせた。

「わかった!奴良君、邪魅はあっちにいるんだね!行くよ!有永さん!」

そういうと、方向転換し、私の返事も確認せず女の子の部屋目掛けて「フハハハ!待ってろー!邪魅ー」と走り去って行った。

おーい!
「ちょっ、清継君!」

声を掛けるが、もう走り去った後で言葉が届かない。

どうすればいいんだろう?
私もみんなと合流した方がいい?

逡巡していると、角の先からリクオ君の苦しげな声が聞こえてきた。

「リクオ君!?」

どうしたのかと慌てて角を曲がると、白いものにきつく絡まれたリクオ君の姿があった。
突然姿を現した私にリクオ君はハッとした表情で口を開く。

「逃げて!舞香ちゃん!」

全身をきつく締めつけられ、苦しそうだ。

「待ってて!白いの、白いのどかすから!」

怖さを忘れリクオ君に近寄ろうとすると、今度は別の白いものが私の前に現れ、邪魔をするように襲いかかってきた。

「っ!」

突然の襲撃に頭が真っ白になる。

ザシュッ

物を切り裂くような音で、ハッと意識が戻ると目の前には切り裂かれた人型の白い紙はヒラヒラと舞い落ちてきた。

「あ、何……?」

右手の違和感に手元を見ると、いつの間にか鋭い爪が伸びていた。

もしかして、無意識のうちに右手だけ妖怪変化させたー!?

びっくりしていると、再びリクオ君の声が上がった。

「舞香ちゃん、危ないっ!」
え?

顔を上げるとゆらりと2,3体、白いものが襲いかかって来た。

「い、やーっ!」

目をぎゅっと瞑りながら、右手を斜め上に振り上げる。
と、今度は刃物が物を切り裂く音が連続して聞こえて来た。
そっと目を開けるとヒラ、ヒラ、ヒラ、と先ほどと同じように切り裂かれた人型の紙が舞い落ちる。
いつの間にか自力で脱出したリクオ君が、私の横で長ドスを鍔鳴りさせながら長い息を吐いた。

あ、助けてくれたんだ……

熱いものが胸を満たす。

「あ、りがとう、リクオ君」
「舞香ちゃん。無事で良かった」

ニコッと笑顔を向けられ、何故か顔に熱が集まっていく。

何?何?何?この熱、なに!?

あわあわしていると、リクオ君は破れた人型の白い紙をつまみ上げた。

「これ、式紙だよね。妖怪じゃない……。舞香ちゃん。この騒動……もしかして……」

私は頬をぺしぺし軽く叩きながら、首を傾げた。

「もしかして?」

と、女の子達の部屋から大きな物音と悲鳴が上がった。

「あっちに邪魅が出たのかもしれない! 行こう! 舞香ちゃん!」

リクオ君は私の右手首を掴むと私を引っ張りながら、駆け出した。
右手首から感じるリクオ君の体温に心臓がドクドクと早くなる。

なんだかそのままずっと繋いでいて欲しい……。
はっ!?不謹慎にもそう思ってしまった自分が恥ずかしい。

と、ふと自分の右手が目に入った。
爪が伸びきったままだ。

ちょ、ちょっと待って、リクオくーん!!!!








- ナノ -