夜になると日中の暑さはなりを潜め、涼しい風が頬を撫ぜる。
どこからか聞こえる虫の声もまた納涼感を醸し出している。

「ふはー、いいお湯だったー」

菅沼さん家のお風呂を借りた私は今、庭に面した廊下を一人歩いていた。
交代でお風呂に入った結果、私が一番最後となったのだ。

長風呂と言えば長風呂。
だけど、まあ、誰にも迷惑かけてないから良し、でしょう!

軽く鼻歌を歌いながら、菅沼さんの部屋へ向かっていると、廊下の向こうから男子3人が現れた。
清継君と島君。それにリクオ君だ。
話し合いの結果、男子は見回り。女子は菅沼さんの傍で警護という事になったので、役割を果たそうとしているのだろう。

「会えたらいーなぁ!いいなぁ!!」

清継君がテンション高く腕をブンブンと振りまわしている。
なんだか、ワクワクが止まらない感じ。
なんの話ししてるんだろ?

「おーい、リクオ君、清継君。島君!」

3人に向かって軽く手を振るとこちらに気付いた3人は、近付いてきた。

「何かあった?」
そう3人に尋ねると清継君が拳をぎゅっと握りしめながら口を開いた。

「いや、まだ何もない。だが、会えたらいーなぁ!と思っている! いや、絶対に会えるのさっ」

目、すごいキラキラしてるなー

「やる気満々な感じ……」

感心しているとリクオ君が至近距離に近付いて来た。
どきっと心臓が跳ね上がるが、これはスルーしないといけない。

私の好きな人は清継君。清継君。

念仏のように心の中で繰り返していると、リクオ君は小声で話しかけてきた。

「霊感ゼロなのに、なんだか気の毒なんだ」
「そっかー。清継君、霊感ゼロなんだー」

じゃあ、邪魅が出ても見えないんだなー
ご愁傷様です。
なむなむ。

心の中で拝んでいると、今度はリクオ君が真っ赤になり、慌てたように距離を取られた。そして、そっぽを向かれる。

「ん?」
「いや、あはは、は」

もしかして、まだ汗の臭いが残ってて引かれたのかな?
いーやーっ

思わず腕の臭いを嗅いだ。
と、リクオ君が両手を振った。

「い、いや、なんでもないよ、それより、寝冷えしちゃうかもしれないから、部屋に……あっ!いたっ!」
「え?」

リクオ君が目を見開き、廊下の向こう側を指さす。

「あそこっ!」
「なにぃっ!?奴良君、どこだぁぁあっ!」

清継君は、きょろきょろ辺りを見回す。
私も思わず辺りを見回した。
すると、廊下の向こうに白いものが見える。
それと同時に背筋に冷たいものが走り抜けた。

あれが……
「邪魅!」








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