古い建物が多い町の中をゾロゾロと皆で歩いていると、電柱に寄りかかり誰かを待っている感じの女の子が居た。
長い髪を1本の三つ編みにし、眼鏡をかけ、セーラー服を着ている。
すごく真面目そうな女の子だ。
その女の子は私達に気が付くと勢いよく駆け寄って来た。
そして、リクオ君の両肩をガシッと掴む。

「ハァ、ハァ……、あ、あなたが清継君!?」
「へ? いや、ボクは……」
「ボクが清継だっ!」
「え? あなたが……?」

その女の子は、眼鏡を片手で掛け直しながら、胡乱げに胸を張る清継君を見る。そして溜息をついた。

「天パ……、はぁ……。今回も期待外れかしら…」

不満げな言葉に私は首を傾げた。

期待外れってどういう事だろう?
ん?そう言えばこんな場面原作のどこかにあったような?
あ! 邪魅事件の依頼主と対面場面!
おー、この女の子が名前忘れたけど、依頼主の女の子!
でも期待外れって言った事は、邪魅事件解決しないだろうな、という諦めの境地なのかな?
天パとどういう関係があるんだろ?
以前、失敗した人も天パだったからかも?

つらつらと思っていると清継君は女の子にがうっと怒りを露わにした。

「キミィ! 天パのどこがいけないんだい!? それにキミは誰なんだい!? 一体!」

そんな清継君を巻さんと鳥居さん、それにリクオ君が、「まぁまぁ」と宥める。
その横で、女の子は私達にペコッと一礼した。

「清十字怪奇探偵団に邪魅退治を依頼した菅沼品子です。来てくれてありがとう。詳しい事情を家で話しますので、付いて来て下さい」

菅沼さんは、電柱の傍にあった武家屋敷の門を開く。
立派な武家屋敷にほうっと息を付いていると、清継君がこの家を蔑む言葉を口にした。

「ハッハッハッ、すごいボロ屋敷だ。奴良くんとこよりボロいんじゃないのかい!?」

多分、仕返しに蔑んだ言葉を零しているのだと思うけど……、はぁ……なんだかなぁ、という感じだ。
少しげんなりした顔で、先を行く清継君を見ていると、ひょこっとリクオ君が顔を覗き込んできた。

「わっ!?」
「あ、びっくりさせてごめん。でもなんでそんなに難しい顔してるのかなって」
「あ、いやいや、なんでもないよ!」

私は両手をブンブンと横に振る。

「そっか……。じゃあ、早く行こう」

と、何故か右手を握られた。そして、ぐいっと引っ張られる。
なんで!?とかの疑問がその手の暖かさに吹っ飛んだ。
顔が瞬間湯沸かし器で暖められたように、熱い。

て、て、手ーっ
なんで、手を握るのー!?

頭の中を混乱させたまま、私は菅沼家へと続く門をリクオ君と一緒にくぐった。


通された菅沼さんの自室には、護摩を焚き何やらお祈りをしているおじさんとショートヘアのおばさんが居た。

え?手?
手は玄関の入り口で、何故か氷麗ちゃんから「許しません!」と謎の言葉と一緒に引きはがされた。
恥ずかしいようなホッとしたような、複雑な気持ち。

と、ショートヘアのおばさんは、こちらを振り向くと困ったように眉を下げた。

「品子ちゃん。また連れて来たの? お祓いなら毎日神主さんが来て下さってるのに……」

お祓い? 神主さん?

私はショートヘアのおばさんの横に座っているおじさんに視線を移した。
お腹が出ているが眼鏡を掛けたフツーのおじさんだった。

確か、原作だとこの人も悪人の一人なんだよね?

菅沼さんの「だって効かないじゃない! ここの神社!」という言葉に、しょぼんっとする姿もフツーだ。

これが演技だって言うのなら、すごい演技力としか言えない。
だって、悪人だったらどこかで、ボロ出すもの。
でも、ホント、この人が悪人なんて、信じられないほどフツーだなぁ…と、思っていると皆が「「えぇええー!?」」と驚きの声を上げる。

ん? 何?

キョトンとしていると、カナちゃんが袖を引っ張って来た。

「ねぇ、枕に立つだけの妖怪じゃなかったの!?」
「え?」
「舞香ちゃん、聞いてなかったの? あの妖怪……腕を掴んで来るのよ!」

そう言えば、原作で菅沼さんが邪魅の説明する場面があったけど、神主さんに気を取られて聞いて無かった。

「大丈夫! ボクらが来たからには全て解決さ!」

清継君がドンッと自分の胸を叩く。

「期待してないけど、お願い、します……」

菅沼さんが小さく頭を下げた。

「はっはっはっ!ボクに任せたまえ!!」

いや、原作通り物事が進むなら清継君はあまり活躍しないよー。

私はいつまでも笑い続ける清継君に心の中で突っ込む。
そんな私の横で複雑そうな顔をしながら、自分の胸を掴むリクオ君に気づくことは無かった。








- ナノ -