やって来ました。邪魅の居る町へ!

電車から降りるとそこは、古めかしい町が一望できる小高い丘の上だった。
町へ下りる歩道には、赤茶色のレンガが敷き詰められている。
そして、町の向こうには輝く海が広がっていた。

「うわー、キレー!」
「いいながめー!」
「光ってる!海キラキラ〜!」

カナちゃん、巻さん、鳥居さんの歓声が上がる。
もちろん私も、目を大きく見開きながら歓声を上げた。

だって、町の向こうに見えるマリンブルーの海がすっごいキレイだったから!
いやー、期末テストの点数もなんとかまともな点数が取れて、心の重荷が無くなったから、解放感でいっぱい!

ちなみにテスト前、内緒にされていた旅先は、原作通り、邪魅の住む町だった。
最初は渋っていた巻さんと鳥居さんだったが、行き先に海があると聞き、コロッと意見を翻した。

「海ー! あの海で泳ぐんだよねー!」
「いいじゃん、いいじゃん!」

確か原作では、カニ漁業の町で泳げないって事だったけど、これだけは、原作と違って欲しい。

だって、泳ぎたい!

泳げるかなー? と、期待を込めて海を見ていると、横に居たカナちゃんが不安げに呟いた。

「妖怪退治なんて……。ゆらちゃん抜きで大丈夫かなぁ……」

再び原作を思い出す。

確か、ゆらちゃん抜きでも、夜リクオ君の活躍で邪魅騒動収まるんだよね。

私は安心させるようにカナちゃんへ笑顔を向けた。

「大丈夫だよ! 枕元に立つだけの妖怪だって清継君言ってたし」
「うん……。そ、そうよね。ありがと、舞香ちゃん」
「いえいえ、どういたしまして!」

うん。今回も原作道りになるよね!きっと!
………多分!!

私はそっと後ろを歩くリクオ君に目を向けた。
と、何故か5人組の大人に絡まれていた。
サングラスを掛けたスキンヘッドの人や金髪頭の人で、すごく悪い人相の人達だ。

大変!
「リクオ君!」
「あ、舞香ちゃん。大丈夫だから」

ひらひらと笑顔で手を振るリクオ君の首元を、ドレッドヘアの男が掴み上げる。

「てめぇ! 無視すんじゃねぇよ! この服どうしてくれんだよ、あー?」
「ほんとだ。黄色くなっちゃってるね。タオルで取れるかな?」

平然と返すリクオ君にハラハラしていると、突然ドレッドヘアの男は悲鳴を上げながらリクオ君から飛び退いた。
そして「おぼえてろ!」と捨て台詞を残しながら逃げていくドレッドヘアの男。周りの悪い人相の人達もわけが判らない顔をしながら、ドレッドヘアの男を追いかけ退場して行った。

どうしたんだろ?
うーん。こういう場面原作にあったかな?

私は脳内の記憶を検索する。

あ。そう言えば、小妖怪達がリクオ君の背中から現れて絡んで来た人達を脅かすんだっけ?

でも、こんな感じだったかな?と首を捻っていると、カナちゃんが「もうっ!」と言いながら、私の横を通り抜けリクオ君に駆け寄って行った。

その姿に、胸がもやもやとし始めた。
なんだか嫌な感じ。
何が嫌なのか判らないけど、2人仲良く話している姿を見ると、もやもやとした中小さな痛みが胸に生じ出す。

私……、やきもちやいてる?
いやっ、そんなハズないっ! 私の好きなのは、……清継君!!!

ペチペチペチッと両手で頬を叩く。
と、巻さんと鳥居さんの声が聞こえて来た。

「何してんのよー!」
「行くよー!」
「はーい!」

私は、自分に喝を入れるよう、最後にペンッと強く頬を叩くと、こちらを向いて待ってくれている清継君達の方に足を踏み出した。








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