私はとっさに目を閉じる。

「危ねぇ!」

と、聞こえて来たのは夜リクオ君の声だった。
瞼の裏側まで白い光が迸(ほとばし)る。
パリパリと身体の周りに電気が帯電する音も聞こえて来る。

でも、何も感じない。
すごい痛みを覚悟していたんだけど、全く痛みは襲って来なかった。

「あれ? え?」

その代わり、額にパリパリと熱が集中していた。

「なに? これ?」

そっと目を開け、額をあたってみると、額の中央に1本角が生えていた。
それが熱を持っている。

電撃を吸収する為本能的に角が出た?
と、雷獣に変身したままのお母さんが、口を開く。

「舞香を庇った事は褒めてやるぞえ。奴良のわっぱ」

うえ?

前を見ると私を庇うように左腕を上げたまま、片膝をついた夜リクオ君の姿があった。
息切れしているように、少し肩が上下していた。

「リ、リクオ君!? 大丈夫!?」
「こんくれぇ、平気だぜ。舞香こそ平気だったのかい?」

振り返って問うて来た夜リクオ君の顔が所々赤くなっている。

痛そう……

「うん、平気。……、庇ってくれてありがとう……。そして、お母さんがごめんなさい、リクオ君」

すると、頭の上に手の平を乗せられ髪をくしゃりとされる。
そしてニッと笑った。

「大事が無くて良かったぜ」

触れられた手の平の暖かさが心地良い。
そして、庇ってくれた優しさに、胸がじんとなり、なんだか涙が出そうになった。
でも、ここで泣いたら、リクオ君に迷惑かけてしまう。

本当にお母さんがごめんなさい……っ

私はぐっと拳を握ると、部屋の入り口に居るお母さんに向かって、視線をキッと向けた。

「お母さん!いきなり電撃で攻撃したら、リクオ君が死んじゃうよ!」

と、雷獣に変化したお母さんは喉の奥で、グルルルと唸った。

「あやつの孫がこれしきの事で倒れるはずなかろう!」
「でも、リクオ君は人間の血も入ってるよ!」
「今は妖怪だぜ?」

夜リクオ君が平然とした顔で口を挟む。

いやいや、リクオ君も怒っていいんだよ!?
どうして怒らないの!?

そう口にしようとした時、後方から知らない青年の声が上がった。

「おいっ、何事だ!? っ、若!?」

開いていた窓から姿を現したのは、昔の鎧に身を包み兜巾(ときん)を被った黒髪の青年だった。
背中には黒い翼を生やし、手には錫杖を持っている。

夜リクオ君を”若”と呼び、黒い翼を持つ妖怪……
もしかして……鴉天狗の黒羽丸!?!?








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