私はお父さんのTシャツを持って来ることにした。
お母さんから猛反対にあったけど、ジュースをひっくり返したのは、お母さんだから、反対する権利ないよね。うん。
と、言う事で、少しお母さんが拗ねたけど、無事お父さんの白いTシャツをリクオ君に貸すことが出来た。
盛大に感謝され、なんだか嬉しくて胸が暖かくなる。
他の人からじゃ、こういう気持ちにはならないよ。
どうしてだろう?と思う。

そして、夕方無事勉強会は終わり、清継君は何故か目を輝かせながら帰って行った。
きっと逢魔が時だから、妖怪足売りばばあに会えると思って帰ったのかもしれない。
ちなみに、たぬきの服は氷麗ちゃんが持って帰った。
もしかして、屋敷内で普段着て貰うのかな?


夕食を食べ終わり、自室のベッドの上でこっそり買い求めた少年漫画を読む。
しかし、頭の中は今日の勉強会での出来事で全く内容が頭に入って来なかった。

リクオ君のタヌキシャツ姿、可愛かったなぁ……
鼻血が出そうだった。
それに、数学を丁寧に教えてくれる優しいリクオ君。
やっぱり、好き……っ。
胸がキュキュッと痛くなる。
でも、氷麗ちゃんと結ばれるんだよね。
…………。
想っちゃダメ。想っちゃダメ。
うー……、すごく胸痛い……。
そうだ!清継君!
私は清継君が好き!

胸の痛さが辛くて、開いた漫画の本の上に頭を伏せていると、ふいにコツコツと窓が鳴った。

ん? 何?

私はベッドの上に読みかけの漫画を置くと、窓際のカーテンを開けた。
するとそこには原作で『へびにょろ』と呼ばれていた空飛ぶ蛇の妖怪に乗った妖怪姿のリクオ君が居た。
白銀の長く柔らかそうな髪を宙に靡かせ、右手には煙管を携えている。

「リクオ君!?」

なんで?

私の部屋に訪ねて来る理由が判らない。けど、すごく嬉しい。
慌てて窓の鍵を開けると、リクオ君は「よう」と片手を上げながら身体を滑り込ませて来た。

「どしたの? 忘れもの?」
「ああ、夜の散歩のついでにな」

夜の散歩という言葉に、原作を思い出す。
そう言えばリクオ君は、四国との戦いの後、夜の散歩という名目のパトロールを毎晩始めていた。
毎晩遅くまでパトロールをしているので、翌日はきつかったはず。
私は壁に掛けているファンシー柄の壁掛け時計を見た。
22時だ。

「リクオ君、この後まだ夜の散歩続けるの?」

リクオ君は私の脇をすり抜け、ベッドに座ると私が今まで頭を埋めていた漫画を手にし、私に向き直った。

「当り前じゃねぇか。夜はオレ達妖の時間だぜ? それよか、この手の本が好きなのかい?」
「うん。少女漫画より、す、好き」

意味合いが違うのに、『好き』と言う言葉を面と言うのが、恥ずかしい!

「ふーん。じゃあ、オレも読んでみるか」

そう言いながら、懐に漫画を入れて行くリクオ君。
と、ふいにリクオ君は私と視線を合わせた。

「で、オレは、なんで舞香のお袋さんに嫌われてんだい?」
「はえ?」








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