「ごめんなさいっ!」

開け放ったドアを思わずバタンッと閉めた。

うわー、うわー、うわー!
びびび、びっくりしたー!!!
なんで、じょ、上半身裸!?

顔がすごく熱い。絶対、真っ赤になってる!
それに心臓がバクバクうるさい。

うーっ、こ、こんな時は……
深呼吸!
すーはーすーはー

「有永!」
「ふひゃい!?」

突然横から声を掛けられ、心臓が飛び出しそうになった。

この声は氷麗ちゃん?

そっと氷麗ちゃんの方へ顔を向けると、そのまま押しのけられた。

なに?なに!?

唖然としていると、氷麗ちゃんは脱衣所のノブに手を掛け開けようとする。
しかし、何故か開かない。
氷麗ちゃんはそのままドアをドンドンと叩いた。

「開けなさーい!」

どうしたんだろう?
さっきは開いたのに?

不思議に思っていると、氷麗ちゃんは何を思ったのか、ドアノブを凍らせていく。

「うわわ、氷麗ちゃん、何してるの!?」
「ちょっと有永、どうして止めるのよ! 裾を離しなさい! 若、今、お助けします!」
「いやいや、そのままノブを手前に引けば開かるから!」
「それが開かなかったのよ! アンタの母親……きっと若が魅力的だから、私を追い出したに決まってるわ! 若をお助けしなければ!」
「は、え? 追い出した?」

目を瞬かせると氷麗ちゃんは私を邪魔だという感じにドンッと押し、身体の周りに冷気を漂わせ始めた。

「若! もう少しの我慢です! このドア壊せば、すぐにでもお傍に!」

ドア壊すって……

と、脳裏に浮かんだのは、保健室の扉。
閉まっていた扉が氷麗ちゃんの力で凍らされ吹き飛んだ。
そして、この家を購入する為に、頑張って働いているお父さんの姿。

「ちょっ、やめて! ここ、私の家ー! 新築なんだから、だめー!」
「ちょっと、有永!抱きつかないで頂戴!」
「やだっ!」

氷麗ちゃんの身体はすごく冷たい。でも、負けたら終わり!
ジタバタ暴れる氷麗ちゃんに必死で抱きついた。

「離しなさい!」
「いーやー!」

しばらく氷麗ちゃんと攻防を繰り返していると、ふいに閉じていた脱衣所のドアが、キィと小さな音を立てながら開かれた。

「2人して何をしておるのじゃ?」

呆れたようなお母さんの声に、氷麗ちゃんの抵抗がピタッと止む。

「リクオ様は!?」
「ボクならここに居るけど……」

お母さんの後にそっと顔を出すリクオ君。その頭は濡れていた。
全体的に濡れているから、きっと私と氷麗ちゃんが揉み合っている間に洗ったのだろう。
しかし、顔は何故かきまりが悪そうだ。

どうしたんだろ?

不思議に思っていると、氷麗ちゃんが私の脇をすり抜け、リクオ君に駆け寄った。

「若ー! 御無事で!」
「大袈裟だよ、氷麗」
「………、若、そのお姿は……?」
「ほほほ。詫びに舞香が着ぬ服を渡したのじゃ」

それは、お父さんが間違えて買って来た、たぬきのシャツだった。
たぬきの絵柄が付いているのではなく、着ぐるみっぽい感じの服だ。
カエルのパーカーがあるが、それのたぬきバージョン。

「若……(お似合いです!)」
「ハハハ……(普通の服が欲しいな)」

……。何か副音が聞こえるよ……。

私は思いっきり遠い目をしてしまった。
うん。似合う。似合うけど、他人の家の中で、仮装まがいの格好をするのは恥ずかしいよね。
リクオ君。うちのお母さんが本当にごめんなさい……。








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