ギリギリ教室に辿り着くと席に着き、カバンを机に掛ける。
さっきのデジャブの感覚は、全部すっ飛んでいる。

はー、HRに間に合って良かった…

胸に手を当て安堵の息を、ほう、と溜息をついていると前方にある扉がガラリと横に開いた。
担任の先生だ!
気を引き締め背筋を伸ばす。
だが、入って来たのは、担任の先生ではなく、天然パーマの少年だった。
身長がすごく高い。170センチはあるだろうか?

誰、あれ?

はて?と首を傾げる中、周りのクラスメイト達もザワザワと騒ぎだした。
そんなクラスメイト達の視線を一身に浴びながらも、気にする風でもなく、天然パーマの少年は教壇に上ると口を開いた。

「諸君! ボクは有志を集いにやってきた!」

有志?

「そう。ボクは今話題になっている妖怪が出る旧校舎への探索をしようと思っている!」

その言葉にざわめきが増す。その中、一人の男子が天然パーマの男の子へ問いかけた。

「おい、清継ー、ホントに妖怪なんていんのかよー」

すると即座に天然パーマの男の子は拳を握り強い口調で答える。

「もちろんいるとも!」

そして、陶酔するように過去の事を語り始めた。
小学校3年生の時にバス事故があり、暗闇の中凶暴な妖怪に襲われた所を、若き闇の支配者に救われたらしい。

ん? この話しって……あ、れ?
『ぬらりひょんの孫』の中の話しに出て来る事件とそっくりだ。
でも、そんなはずない。
あれは、漫画の中での出来事だ。現実に起こるわけがない。
そんなわけ、ない。
でも、この天然パーマの男の子が語った言葉は、『ぬらりひょんの孫』の話しにあまりに酷似しすぎている。

なんで?

頭の中をグルグルさせて悩んでいるといつの間にか天然パーマの男の子の話は終わり、遅れて来た先生に注意を受け、立ち去っていた。
そして、普通の授業が始まる。
だが、私の頭の中には、何故『ぬらりひょんの孫』と同じ事が起こっているのかという疑問でいっぱいで、授業の内容は頭に入って来なかった。


お昼休み。カナちゃん達とお弁当を食べる。だが、いつもは皆で談笑しながら食べるのに、何故か今日のカナちゃんは無口だ。
何か考え込んでいる様子だ。

「カナ、どうしたの? 食べないの?」
「あ、まさかのダイエット?」

2人の友達が口を閉ざすカナちゃんに話しかける。
と、口を噤んでいたカナちゃんが突然口を開いた。

「わ、わたし、行こうと思うの!」
「「「へ?」」」
どこに?

何の事か判らない私達に、カナちゃんは両手を握りしめながら、言葉を続けた。

「旧校舎!」
「えー! 危ないよ!」
「そうよ、止めといた方がいいって!」
「ううん。行くわ! もしかしたら、会えるかもしれないし……っ」

止める2人の言葉は届かず、カナちゃんの目は決意に燃えていた。
そんなカナちゃんを2人は心配するが、言葉が届かない事を知ると、夜遅くにカナちゃん一人だけ出かけさせるわけにはいかない、という話になった。
しかし、2人共塾があり、付いて行くことが出来ない。
なので、付いて行ってやって、と頼まれる。
いや、私にも門限があるんだけど、こんな可愛いカナちゃんが夜遅くに外を出歩いていたら、確実に危ない。
私は、お母さんのお小言を覚悟しつつ、カナちゃんの護衛役を引きうけた。








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