やっと頬の熱さが取れて来たかと思ったら、2人の友達にからかわれ、カナちゃんがそれを止めてくれた。
ありがとう。カナちゃん。
でも、2人が席に戻った後、コッソリ耳打ちされた。
「ごめんね。舞香ちゃんには悪いけどリクオ君は私の事が好きだと思うの」
へ?
目が点になると同時に、胸へ鈍い痛みが広がった。
この鈍い痛みの意味は、いくら私でも判る。
何度も自分に言い聞かせているのに……
私は無理矢理笑顔を作ると、いやいやいや、と首を振った。
「違う違う、2人の勘違いだって」
「え? そうなの?」
首を傾げるカナちゃんを安心させるように、私はコクコク頷く。
「リクオ君はただの友達だよ」
「そ、そうよね!」
そしてカナちゃんは、あらぬ方向を向いて、私の勘違い?と呟く。
うん。勘違い、勘違い。
うんうん、と頷いていると、カナちゃんは再びこちらを向いた。そして、軽い口調で尋ねられる。
「じゃあ、舞香ちゃんが好きな人って誰?」
「う、えっ!? い、いないよ?」
「本当?」
じーっと綺麗な目で見つめられ思わず目を逸らしたくなる。
それをこらえ、「本当、本当!」と返した。
それを信じてくれたのか、カナちゃんは見つめるのを止め、何か考え込み出した。
私はホッと溜息をつく。
勘違いされなくて良かった……
でも……、確か原作でもカナちゃんは、さっきみたいな事をゆらちゃんに言っていたけど、結局氷麗ちゃんが勝利するんだよね。
やっぱり、いつもリクオ君の身を案じているから、氷麗ちゃんが勝利したのかなぁ?
そう考えても、鈍い痛みが胸を襲った。
はあ、痛みが消えない……。言い聞かせてもダメだ。
こうなったら、身近な男子を好きになるよう、頑張ろう!
「頑張れ!私っ!」
むんっと自分に気合いを入れると、カナちゃんが吃驚したような目で振り向く。
そして再び誤解され、誤魔化すのに苦労した。
だから、カナちゃん! 自分に気合い入れてたのは、リクオ君が好きだからじゃないってー
放課後になると、部活動をする為にカナちゃんと2人で部室になってしまった生徒会室へと向かった。
清十字怪奇探偵団には、テスト前の休みは無いらしい。
て、言うか他の生徒会のメンバーってどうなってんだろ……
ガラリと生徒会室の扉を開けると、清継君が右横にあるホワイトボードに向かって拳をドンドンとぶつけている姿があった。
「なぜだっ! 何故今日も来ないんだ! 花開院さーん!」
どしたの!? 清継くん!?
吃驚していると、清継君から少し離れて雑誌を読んでいた巻さんと、バランスボールの上で腹這いになって乗っている鳥居さんが、私達に向かって手を上げた。
「よっ、2人共。今日は遅いじゃん」
「家長さん、有永さん、いらっしゃーい」
私とカナちゃんは、巻さんと鳥居さんに近寄り挨拶を返すと、再びホワイトボードの前で悶絶している清継君に目を向けた。
そして、カナちゃんが声を小さくしながら、2人に尋ねる。
「どうしたの? 清継君?」
「あー、ただのわがまま」
「そうそう。私達が陰陽術の訓練してないのが、不満みたい」
「陰陽術? って、あ! あれ!?」
そう言えば……
数日前くらいに習った動作とかを思い出す。
でもあれから訓練は受けていない。
どうして今更?
首を傾げると、清継君がこちらを振り向き、大きな声を上げた。
「それもあるけど、そうじゃなーい! 我が部のエース、花開院さんが居なかったら締まらないじゃないかぁ!」
ガウッと吠える清継君。
「「そっち!?」」
巻さんと鳥居さんの突っ込みの言葉が重なった。
「でも、ゆらちゃんが居ないから、特別寂しいだけだったり?」
私の言葉に、巻さんと鳥居さんは、にやりと笑う。
そして、巻さんが、清継君の肩をポンポンと叩いた。
「そうか、そうか。妖怪バカの清継も、ついに恋愛に目覚めたんだ?」
「は?」
「清継君も恋愛するんだねー」
2人のからかうような言葉に、キョトンとしていた清継君だったが、会話の内容を理解して来ると、再び大きな声を出した。
「ちがーう! ボクが敬愛しているのは、唯一人! そう。闇の主のあのお方だけだ! ああ、思い出すだけで胸が……!」
お花畑にいるような表情であのお方(きっと夜リクオ君)を思い出す清継君に、巻さんと鳥居さんは、こいつダメだ、という呆れた視線を向ける。
そんな清継君を見ていた私は、ふと、ある事に気が付いた。
ん? そう言えば、清継君も一応身近な異性?
「ふーむ?」
良く見れば、顔も整っている……ように見えるし。
性格も明るいと言えば明るい。
目的に一直線で、脇目も振らない。
そうだ。清継君を好きになれば……
私は、じーーっと清継君を観察する。
それに気が付いた清継君は、不思議そうな顔をした。
「なんだい? 有永さん?」
声も良い……
「はっ!? もしかして、今日もボクの妖怪談義を聞きたいのかいっ!? はっはっはっ、いーとも! ボクに任せたまえ!」
勘違いが多いけど……
「有永ー、嫌なら嫌って言った方がいいぜー?」
「そうそう。清継君、すぐ暴走するからねー」
じーっと清継君を観察し続ける私に、巻さんと鳥居さんが心配げな顔をして、声を掛ける。
そんな2人に清継君は異を唱えた。
「君達! 暴走とはなんだい!? 失敬な! ボクはいつでも紳士だよ!?」
「えー? いつも暴走状態じゃん」
「うん」
「ガーンッ、そんな!」
口で擬音っぽい事言うし、楽しい人だよね。
よっし。私は清継君を好きになる。好きになる。
リクオ君は好きじゃないっ!
普通、普通――っ
清継君、大好きーっ
強く自分に言い聞かせていると、後ろで扉が開く音がした。
そして、柔らかな声が耳に届いた。
「あれ? まだ始まってなかったのかな」
「若、らっきー、ですねっ!」
その声に心臓が大きくドクンッと跳ねる。
そして、鼓動が早くなる。
隣に居るカナちゃんに聞こえてしまうくらいに。
ううっ、静まれ、心臓ーっ