「どこまで知ってんの?」

どこまで、ってどういう意味だろう?
私は首を傾げた。
どこまで、と言われるほど鯉伴さんの過去は知らない。
知っているのは、色々と優しくしてくれる今の鯉伴さんだけ。
それに鯉伴さんのお嫁さんも若菜さんしか知らない。
あと鯉伴さんのお父さんはぬらりひょんさん。
お母さんは珱姫。

って、あ、れ?
さっき鯉伴さんは、暮葉さんの事を「お袋」って呼んでいたよね?
う、え?
どういう事だろう?
原作と違う?

そう考え込んでいると暮葉さんは、早々と考えるのを放棄したように呟いた。

「まあ、いいわ」
「良くねぇ」
「いたの?」

暮葉さんの呟きにぬらりひょんさんが突っ込む。
ぬらりひょんさんは、暮葉さんの言葉にズーンッと落ち込むが、すぐに復活し、暮葉さんを後ろから抱き締めたまま私を鋭い眼で睨んだ。

「奴良組にとって良くねぇ事を知ってたらどーするんじゃ」

ギラつく眼で見られ、私は身体を縮こまらせた。
すると暮葉さんが「ぬら、落ち着いて」と言い、ぬらりひょんさんの頭をペンッとはたいた。

「知ってるとすると…、もしかしたら私と同じ」
「同じ? どーゆー事じゃ!?」
「……」

私は暮葉さんの言葉に眼を瞬かせた。

同じ!? 
えっと、それってテスト勉強って言う言葉を知っている事と関連がある?
あ…、と言う事は、現代を知ってるって事で…
もしかして、生まれ…変わり?
私と一緒っ!?

そう考えると何故だか親近感が沸いて来る。

私は現代に生まれたけれど、暮葉さんは過去に生まれちゃったんだ。
過去なんてすごく生きるの大変そうだけど、頑張って生きて来たんだよね。
すごい……!

そして、感動が生まれた。
その中、暮葉さんは赤い目を少し細め私を見ると口を開いた。

「元の世界に送ってあげる」
「いらない」
「誰じゃっ!?」

ぬらりひょんさんがその声の主に誰何すると、庭の枝垂れ桜から金の狐耳と4本のふさふさした金色の尾を出した天也お兄さんが姿を現した。
それに暮葉さんが目を見開く。

「妖狐……」
「ワシらに何の用じゃ」

ぬらりひょんさんは暮葉さんを抱き締めながら、恐ろしい妖気を纏い警戒をした。
天也お兄さんはぬらりひょんさんの存在をスルーすると私の元へやってくる。

「探したよ。響華」
「天也、お兄さん?どうしてここに?」
「双子なんだから判るさ。帰るよ。魂だけで彷徨ってると身体が持たない」
「う、えっ!?」

魂だけってどういう事!?!?

吃驚している私の前に天也お兄さんは手をかざす。
するとまた睡魔がやって来た。
その中、天也お兄さんと暮葉さんの会話が聞こえた。

「妹の保護、一応感謝するよ」
「別に…。こっちこそバカがごめん。でも、そんな力……妖狐って持ってたの?」
「他の妖狐なんて知らない。個人の差じゃない?」
「そう…………」

少し寂しそうな暮葉さんの声が最後だった。

暮葉さん、どうしたんだろう?
今度また会ったら、聞いてみたいな………


無事元の世界に戻ると、事を知ったお母さんに魂の離脱はまだ早過ぎる、と怒られた。
そして、私が行った世界は百万あるうちの一つの平行世界だと教えられる。
平行世界なんて雑誌でしか読んだ事が無かったので、現実に体験し、後になってからドキドキがやってきた。
そして色々な世界にもっと行けるといいな、と探究心が疼き出す。
でも、その前に暮葉さんのあの寂しげな声が気になるので、また行けたらいいな、と思う。

暮葉さん……







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