リクオ君の家で試験勉強をする事となったので、部屋で教科書を広げ待っていると急に眠気がやってきた。
欠伸が何度も出て、眠気が増す。

こんなところで眠っちゃだめ!

そう思うが、更に睡魔に襲われ、私はその眠気に負けた。

うん、ほんの数秒だけ。
ほんのちょっと目を閉じるだけ。

そう思いつつ座卓の上で目を閉じた。


「こいつ誰だ?」
「さあ?」
「新しい奴か?」

耳元でさわさわと話声が聞こえ、意識が浮上して来た。
そしてうっすらと目を開けると子鬼さんの姿が目に入る。

えっと……小妖怪さん? …どうしたんだろう? 遊びに来たのかな?

私はゆっくりと顔を上げるとまだ眠気の残る目を一つ擦り、小妖怪さんに向かって口を開いた。

「えっと…、こんにちは。お邪魔してます。…今日はリクオ君と試験勉強する為に、ここに居るから、この前のかくれんぼの続きはまた後でね」

私の言葉に小妖怪さん達は何を言ってんだ? と顔を見合わせる。
そして呆れたような顔をし、私を囲んだ妖怪さん達は口々に言葉を紡いだ。

「リクオ? 何言ってんだ? お前?」
「それよか、お前、2代目が連れて帰った新しい妖怪か?」
「変な服着てやがるよな」
「な。女のクセに足出してるぜ」
へ?

私はその言葉の数々にきょとんと目を見張った。

「なあなあ、あんたどんな妖怪なんだ?」

興味深々の小妖怪さん達。

私の事を良く知っているはずなのに、なんでこんな質問されるんだろう?

心の中で首を傾げていると閉められていた奥の襖がスッと開き、見たこともない可愛らしい女性が出てきた。
白い髪に変身したリクオ君とは少し違う赤い眼。

えっと、リクオ君家にこんな女性居たっけ?
新しい妖怪さん??

首を傾げているとその女性は淡々とした口調で口を開いた。

「うるさい。空き部屋で何騒いでるの」

あ、き……部屋? あれ? ここ、リクオ君の部屋よね?

不思議に思い周りを見回す。
と、見慣れたリクオ君の勉強机や本棚が無い。
ただ床の間に掛け軸と花瓶が置いているだけだった。
それに、さっきまであった座卓や教科書も無くなっている。

え? え? え?
ここ、どこっ!?

うろたえる私に白い髪を後ろで一つに結った女性は、一つ声を掛けた。

「あなた、誰……?」


小妖怪さんが囲む中、私はその女性と話しをした。
話しと言うか、色々な疑問に対する答えを教えて貰った。
ここは私の居た時代よりも300年ほど昔の時代らしい。
私がリクオ君家にテスト勉強をする為に来た事を話すとあっさり時代を教えてくれた。

あ、れ?
でも、昔の人ならなんでテスト勉強という言葉とか知ってるんだろう?

はて? と首を傾げていると「お袋、ここかい?」と言う言葉と共に廊下に面した障子がガラッと開いた。
そこには、300年後の鯉伴さんと全く変わらない姿の鯉伴さんが、びしょ濡れの姿で立っていた。
鯉伴さんを見た白い髪の女性は少し眉を顰める。
そんな様子に構わず鯉伴さんは肩にかけている手拭いでゴシゴシ自分の髪を拭きながら、私を見た。

「ん? お袋、この子一体ぇ誰だい……? もしかして、隠し子かい?」

ニッと笑う鯉伴さんに白い髪の女性は呆れたような視線を投げかける。

「バカ」

と女性が呟くと、突然襖がスッパーンッと開いた。

「何いぃーっ 隠し子ーっ!? 暮葉―――っ!」
「……めんどいのが来た」
「相手は誰じゃっ!? ワシの暮葉をよくも!」

奥の襖を開いて出て来たのは年老いてなく現代より随分若いぬらりひょんさんだった。
ぬらりひょんさんは白い髪の女性、暮葉さんに近付くと腕をガシリと掴む。
そして真剣な表情で相手を聞いていた。
暮葉さんは、めんどそうな表情でそっぽを向き、溜息を一つ付く。
そして私を見ると少し苦笑した。

「わたしの旦那と息子……。バカ達でごめん」
「ひでぇな…。バカは親父だけだろ……」
「何ぃーっ!」

ぎゃいぎゃいと騒がしい中、廊下の向こう側からとたとたと足音が聞こえて来た。
その足音の主はひょこっと障子から顔を出す。
黒い眼のすごく綺麗でおしとやかそうな女性だった。

「お母様、ただいま帰りました。あ…、お父様に鯉伴様もどうしてここにいらっしゃるのですか?」
「おう、乙女。今、隠し子について話し合ってんだ…」
「隠し子?」

鯉伴さんに乙女と呼ばれた綺麗な女性は、私をじっと見て首を傾げた。
するとぬらりひょんさんが、暮葉さんを後ろから抱き締めながら口を挟んだ。

「鯉伴め。自分の隠し子をワシの暮葉の隠し子とかぬかしやがった」

と、それを聞いた乙女さんがザッと顔を青くする。

「おいおい…。何言ってやがる。乙女が本気にしたらどうすんだい」

鯉伴さんが片目でぬらりひょんさんを咎めるように見るが、乙女さんは力無く笑うと「台所の手伝いをして来ますね」と言い、そのまま姿を消した。
それを見たぬらりひょんさんが呟く。

「本気にしたようじゃぞ」
「なっ!? おい、乙女!!」

慌てたように鯉伴さんも乙女さんが消えた方向に向かった。

私はいつもは飄々としている鯉伴さんの珍しい慌てぶりに、疑問が浮かぶ。

あの人…
「誰、だろ?」

思わず口にしてしまった疑問に気付いた暮葉さんが、静かな口調で答えをくれた。
「山吹乙女……。鯉伴の嫁」

鯉伴さんのお嫁さん?

何故かズキンッと胸が痛む。
私はその原因不明の胸の痛みに首を傾げた。

ここが300年ほど昔なら、鯉伴さんがお嫁を貰っていても不思議では無い。
でも、現代ではあの綺麗な女性はいない。

と、言う事はあの人って……
「人間、ですか?」

またしても思わず聞いてしまった私に暮葉さんは少し考えるそぶりをみせると逆に別の事を問われた。

「あなた。どこまで知ってんの?」
「え?」

どういう意味だろう?







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