信憑性の薄い私の言い訳を聞いたリクオ君は少し眉を顰めた。

や、やっぱり信憑性薄いからリクオ君、怒っちゃった・・・?
・・・嫌いになられたらどうしよう。

急に不安が胸の中に湧き上がり、先ほど口にした言葉への後悔が渦を巻いた。
私は下唇を噛むと不安な気持ちを抱いたまま、隣に座っているリクオ君をそっと見る。

「響華ちゃんから見て夜のボクとそんなに似てる?」

困惑したように笑うリクオ君に今更咄嗟に口から飛び出た言い訳だとも言えない。
私は眉を八の字にさせながら、膝上のスカートをぎゅっと握りしめると思いきって口を開いた。

「リクオ、君・・・。怒っちゃった・・・? ご、め・・な・っ」
「怒ってないよ」

リクオ君は静かな声で答えると額と額をコツリと合わせ、スカートを握りしめる私の手を包み込むように握った。

「そうだったんだ・・・。ボクてっきり響華ちゃんのお母さんがボクの正体を知ってて話したんだと思ってた・・・」
「え?」
「だって、響華ちゃんのお母さんってじいちゃんと知り合いだって良太猫に聞いたし。それだったらじいちゃんを通じてボクの事聞いたのかなって・・・」

私は額と手から感じるリクオ君の体温にずっとこうしてて貰いたい、と思いつつ、リクオ君の発した言葉について考えた。

知らない所で大きな勘違いをされていたみたい。
と、言う事は深く考えた事無かったけれど、初めて妖怪化した時私だと判ったのは、お母さんが妖怪だと知って、妖怪化した私がお母さんに似てたから?
改めてリクオ君の観察眼、すごいと思う。
私だったら、きっと判らない。

「でも全部ボクの予想だったから、響華ちゃんにずっと聞いてみたかったんだ」
「うん・・・」
「夜のボクって強くてカッコ良くて、人間のボクとは大違いだから、雰囲気が似てるって言われて吃驚したよ」

少し苦笑しつつ言うその言葉に自分を卑下しているように感じ、私は間近にある澄んだ目を見つめた。

「今のリクオ君、格好良いよ? リクオ君の笑顔も優しい所も全部、好き・・・あ。」

思わず自分の心を正直に言ってしまい、恥ずかしさが沸いて来て顔に熱が籠る。
それを隠そうと右頬に手を当て俯こうとしたら、リクオ君の手に止められた。
右腕を掴まれ左頬に手を添えられる。

「リクオ、君?」
「ボクも素直だけど変な所で意地を張ったりする響華ちゃんが丸ごと全部好きだ」

その言葉に心臓が痛いほど大きく跳ね、嬉しさで涙が滲んだ。

なんでこんなに嬉しいんだろう?
そう言えば人間の時のリクオ君に『好き』と言われた事無かったから・・・?
それともどこを好きになってくれたのか良く判らなくて、心のどこかで不安に思ってたから?

すごく嬉しくて、リクオ君が好きという気持ちが胸の中いっぱいに膨れ上がる。

「リクオ君・・・」
「響華ちゃん・・・」

お互いの名を口にしながら、引き寄せられるように顔と顔の距離が縮むと、最後にはゼロとなった。
ただ重ねているだけで、心地良さが唇から身体中に広がる。

好き。大好きです。

唇を重ねたまま、もっとリクオ君を多く感じていたくて、両腕をリクオ君の首に回した。
服越しに身体が密着しその暖かさに幸せを感じる。
そしてリクオ君の手がいつの間にか私の頭の後ろに回され、唇を押しつける力が強くなった。
重ねられた唇をまだ離して欲しくなくて、目を閉じたまま縋るようにリクオ君の背中に回した腕に力を込め、服をぎゅっと握る。
すると、突然身体が傾ぎ畳の上にトサリと倒された。

背中に感じる畳の感触に吃驚して目を見開くと、唇を重ねているのは夜の姿のリクオ君だった。
その事に二重に驚愕する。

「リ、ク・・・? んっ、ぁ・・・っ」

リクオ君の名前を呼ぼうとすると唇の角度を変えられ、開いた唇の隙間から熱い舌が侵入して来る。


リ、クオ君・・・?
な、んで、夜の姿になってるの?








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