窓の外が茜色に染まる。
自由研究として京の妖怪の事を纏めていたのだが、いつの間にかワカメ君の妖怪講義の場に変わっていた。
しかし、最初の方で京での経験を聞いたのだが、妖怪達に攫われそうになった巻さんと鳥居さん。
本当に無事で良かったと胸を撫ぜ下ろす。
そして、カナちゃんが何故花開院本家の客室を慣れた様子で使っていたのか謎が解けた。
滞在している間、客室にずっと居たのだ。
慣れるのは当たり前だろう。

そして、切りがつくと皆帰って行った。
私はコップを片付けながら、溜息を一つ付くとそれを台所の流しに持って行く。
と、またチャイムが鳴り誰かの来訪を知らせた。
誰だろう、と思いつつドアを開けるとそこには先ほど帰ったばかりのリクオ君が立っていた。

「リクオ君?」

首を傾げる私に構わずリクオ君は後ろ手でドアを閉めると真剣な目で問いを口にした。

「響華ちゃん。また一人で泣くの?」
「え?」

私は突然の問いに首を傾げる。
だが、昨日泣いた事を言い当てられた事を思い出し、私は首を横にブンブンと振った。

「泣か、ないよ?」

リクオ君はそんな私の頬に手を添えると真っ直ぐに見つめて来た。

「嘘」
「うそ・・じゃない」

そう、昨日思い切り泣いたから泣かないと決めたのだ。
私は先ほどより弱く首を振る。
頬に添えられた手が暖かくて心地良くずっとこうしてて欲しいと心のどこかで思いながら。
そうするとリクオ君は深い溜息をついた。

「本当、変な所で響華ちゃん意地っ張りだよね・・・」

心外な言葉に私は目を瞬かせる。

えっ!? 私って意地っ張り??

吃驚していると、リクオ君は「お邪魔するね!」と笑顔で言い放ち、靴を脱ぐと家に上がる。
そして私の手を掴んだ。

「そんな所も可愛いから好きなんだけど、ボク今日はずっと一緒にいるね!」

サラリと恥ずかしい言葉を口にするリクオ君に私は赤くなる。

あれ? でも、今日はずっと一緒って・・・

私はリクオ君に疑問を投げかけた。

「リクオ君、家に帰らないと皆心配するよ?」
「大丈夫、大丈夫! つららに全部頼んだから!」

ぺかっと明るく良い笑顔で答えるリクオ君。
その言葉に何を頼んだの!? と突っ込むよりも先につららちゃんの呼び方に、胸の中がもやもやして来た。
なんだかとても嫌な気持ちだ。
このもやもやとした気持ちはなんだろう?
リクオ君と手を繋ぎ触れ合っているのになんだかつららちゃんの方がリクオ君に近い気がしてくる。

やっぱり、リクオ君、無意識に私よりつららちゃんの方が好き・・・?

もやもやした気持ちのまま思考がぐるぐるとなりだした時、脳裏に声が響いた。

―――ひぇっひぇっひぇっ、そうじゃ。子狐には晴明様しかおらん―――

「せ・・い、めい?」

その呟きを拾ったのか、私の手を引き前を歩いていたリクオ君は振り返り不思議そうな顔をして私を見る。

「響華ちゃん?」

私はリクオ君の言葉にハッと我に返る。
なんだか一瞬思考の海に飛び込んでいたかもしれない。
私は安心させる為に笑顔を作り、小さく首を振る。

「ううん。なんでもない。リクオ君、座ってて。お茶入れるね」

リクオ君をちゃぶ台の傍に座って貰うとお茶の用意をする。
そして、リクオ君の提案で一緒に夏休みの宿題をした。
それをやり終えるとリクオ君が口を開く。

「響華ちゃん。羽織の件で思い出したんだけど、あの時はごめんね? 夜のボクを止めきれなくて・・・」

私はその言葉が意味する事が最初何の事か判らずきょとんとするが、記憶を辿り羽織にくるまれた事と消毒された事を思い出し、羞恥に顔が真っ赤になる。
しかし、そんな私を真剣な目で見つめながら、リクオ君は言葉を続けた。

「でも、あれもボクの本音なんだ」
「リ、クオ君・・・」

なんだか嬉しさが胸の底から沸き上がる。
私よりずっと前から好きでいてくれて、すごく嬉しい。
手をそっと握られ、幸せな気持ちでいっぱいになっていると、次の言葉に冷や水を浴びせられたように背筋が冷たくなる。

「でも、響華ちゃん、ボクの夜の姿知ってたよね。どうしてなの?」
「え・・?」

リクオ君と変身したリクオ君が同一人物だと言った覚えは無い。
いつバレたのだろう?

手を掴まれたまま答えあぐねているとリクオ君はその答えを教えてくれた。

「響華ちゃん、化猫屋でマタタビカクテル飲んだ時、夜の姿のボクの事、ボクの名前で呼んだんだよ」

え? え? え?
うそっ!? 記憶にないんだけど・・・
酔って口が滑っちゃったのー!?
酔った私のおバカーっっ
なんで、ポロッと言っちゃうのーっっ!?!?

私は必死で頭を巡らせながら、言い訳を考える。

「え・・・と、雰囲気が、似てた・・・・から、間違っちゃった・・・?」

苦しい言い訳を口にしながら、私は居るか判らない神様に心の中で祈った。


ううっ・・・苦しい言いわけだけど通じて下さいーっ







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