リクオ君と居間に着くと決して広いとは言えない居間に総勢6人もの人間が円形のちゃぶ台の周りに所狭しと座っていた。
私が居ない間に居間にはクーラーとテレビのスイッチが付けられている。
本当にどうしてこんなに狭い所で夏休みの自由研究を纏めるんだろう? と首を傾げる。
でも、お客様はお客様なので、ジュースでも出そうと台所に行きかけるとワカメ君から呼び止められた。

「さぁて、皆揃ったところで、京都での体験を纏めよう! その前に朝倉君!」
「はい?」

台所の入り口で暖簾越しに振り向くと目を煌めかせたワカメ君が私の方を見ていた。
うん。なんだか、久しぶりにワカメ君のハイテンションに巻き込まれそうな予感がひしひしとする。

「妖怪のように素敵で人間離れした君のお母さんはどこだい!? 是非お会いしたい!」

普通、妖怪のようなお母さんと言われれば、怒る所なのだが、本当に妖怪なので反論出来なくて、私は苦笑する。
そして、お母さんを思い出すと辛くて胸が痛み出した。
それに耐えつつも、お母さんの事をどう言おうか迷い、返答に口籠る。

そんな私の様子などお構いなしにワカメ君は目をキラッキラッと煌めかせて言葉を続けた。

「京都で妖怪が居る確証のある旅が出来たんだ! だからボクの最初の見解(考え)は合ってると確信した!」
「清継の最初の見解って何だっけ?」
「んー。忘れた。それよりケンカイって何?」

テンションマックスのワカメ君の横で眉を寄せ顎に手を当てる巻さんと、ちゃぶ台に顎を置き、のほんと微妙な疑問を口にする鳥居さん。
そう言えば私もワカメ君の妖怪に対する見解は、知らない。
そのまま黙ってワカメ君を見守っていると、ワカメ君は両手を広げ声高々と話しだした。

「君達! ボクの最初の見解は妖怪は必ず居るという事さ! ずっと言ってるじゃないか! テレビでは人型の妖怪も居た! つまり、朝倉君のお母さんももしかしたら、人に身をやつした妖怪かもしれないのさ! むっ、と言う事は朝倉君も妖怪かい!?」
「ちょっと失礼だよ。清継君・・・」
「そーそー、響華ちゃんに変な事言うの止めろよなー」
「そーだよ。響華ちゃんが妖怪なら、私達も妖怪だよー」

本当の事を言い当てられ、ドキッと心臓が跳ね上がるが、カナちゃん、そして巻さんと鳥居さんの私を庇ってくれる援護の言葉に複雑な気持ちとなる。
庇ってくれるカナちゃんと巻さんと鳥居さんに謝りたい。
ごめんなさい。本当は半分妖怪です、と。

そう思いつつ徐徐に気持ちが沈み込んでいると、私の前にワカメ君は突然移動して来た。
そして、両肩をガシリと掴まれユサユサと揺さ振られる。

「さあ、朝倉君! 吐きたまえ! 君のお母さんの正体を! ボクは真実を知りたい! 主に近付く為ならばこの清継火の中水の中さ!」
「あ・・・え、っと」

身体全体をガクガク揺さ振られながら、ああ、やっぱり最初の予感大当たり・・・?と私は心の中で遠い目をした。
すると横からリクオ君の声がし、その揺れはピタリと止まる。

「ワカメ君。響華ちゃん怪我してるんだから乱暴は止めてよね」

そして両肩からワカメ君の両手が外れる感触がすると、目の前にリクオ君の背中が目に入った。
リクオ君は私とワカメ君の間に身体を割りこませ、私を庇うように両腕を広げ間に立っていた。
庇ってくれる優しさに嬉しくなり、思わずリクオ君の服の裾を握る。
手を繋いでなくても触れてるだけでなんだか、心が暖かくて安心出来る。

「しかしだねぇ、奴良君・・・・・ん? さっき気になるような言葉が耳に入った気がするけど、気の所為かい?」
「あはは、うん。きっと気の所為だよ、清継君」

やだなぁ、と明るく笑うリクオ君。そんな中、巻さんが呟く。

「ヘンタイワカメで合ってるじゃん・・・」
「変態天パーだよ。巻」
「そーだったんですか!? では、あの方の事は変態天パーさんと呼べば!?」
「うん。おおむね合ってるわ・・・」

巻さんの言葉に鳥居さんが補足を入れ、それを聞いたつららちゃんが身を乗り出し呼び名の修正をする。
そして、つららちゃんの横でカナちゃんが、うんうん、と頷いていた。

そんな4人の言葉はワカメ君の耳に、すぐ入ったらしく、振り返り反論を始めた。

「君達! 誰が変態天パーだい!? 天パーは貴重品種なんだよ! あの時朝倉君の胸を揉んだくらいでいつまでも変態と言うのは失礼だとっ、っっっ!?!?」

セリフの途中で笑顔のリクオ君に足の甲を思い切りグリグリと踏まれ、ワカメ君は痛みに悶絶する。
痛みに悶絶するワカメ君を残し、リクオ君は私の手を引くと台所に向かった。

「まったくもう・・響華ちゃんの胸はボクのなのに・・・」

・・・はい?

耳に入って来た言葉が理解出来ず、目を瞬かせているとリクオ君が振り向く。

「ね! 今度からは絶対誰にも触らせちゃダメだよ」
「触らせる?」

なかなかリクオ君の言っている意味が判らない。
でも、考えてみるとリクオ君とカナちゃんが手を繋いでる様子を想像するだけで、胸が痛くなる。
他の女の人にして考えてみたらもっと胸が痛苦しくなった。

えっと・・・リクオ君も私が他の男の人を触るとこんな気持ちになる・・・って、事なのかな?

なんだか、気持ちが一緒の気がして、すごく嬉しくなった。
私はリクオ君を見返しながら、コクッと一つ頷く。
男の人には極力触れないという意味を込めて。

そうするとリクオ君は凄く嬉しそうに顔をほころばせた。



リクオ君に8人分のジュースとお菓子の用意を手伝って貰うと、それを2人で手に持ち居間に向かった。
が、部屋の中には誰も居なかった。

「「?」」

リクオ君と顔を見合わせ、2人で首を傾げる。
と、「これは・・これは、もしやー!?」とワカメ君の歓喜の声が居間と襖で仕切られた隣の部屋から聞こえて来た。

・・・隣の部屋・・・隣の部屋って・・・私の部屋ーっ!?

慌てて、仕切った襖を開けるとそこには、本棚から漫画を探す巻さんと鳥居さん。
何故か宿題のしかけたノートをジッと見ている島君。
そして何か着物らしきものをテンションハイマックスで抱き締めるワカメ君。
つららちゃんは口元を着物で隠し、カナちゃんは難しい顔をしてワカメ君が抱き締めている着物らしきものを見ていた。

それって、リクオ君から借りてる大事な羽織ーっ


そ、れは「だめっ!」







- ナノ -