4月中旬。麗らかな日差しが眠気を誘う。
お弁当を食べ終えた私は欠伸をしながら、机の上に頬杖をつくと昨日見たあるブログの記事を思い出した。
年収数百万の男が、恋人に対する愚痴を書いたものである。
そんなに不満があるならさっさと別れろ、と思うが、彼女にははっきり言えない男らしい。
陰でこそこそ悪口を書く最悪な男である。
まあ、たまたま辿り着いたブログだが、こういう情けない男も居るのか、と呆れてモノが言えない。
て、言うか、このクラスの男子も今は何も考えて無さそうだけど、大人になったらこんな呆れたヤツになる人が出て来るんだろうなぁ・・・

ボケーっとそう思っているとひょこっとカナちゃんが顔を覗き込んで来た。

「綺羅ちゃん。どうしたの? 眠いの?」
「うん。お弁当食べたら眠くなった」

笑いつつ答えると「ふうん?」と可愛らしく小首を傾げるカナちゃん。

こんな可愛いカナちゃんもいつか彼氏作るんだろうなぁ・・・
でも彼氏がブログ書いた男のようなヤツだったら最悪だよね。

「ね。もしもよ? もしも、彼氏が出来たとして、その彼氏が自分への不満を裏でコソコソ言ってたらどうする?」
「彼氏?」

カナちゃんの顔が瞬く間に真っ赤になり、うろたえ始める。

「あ、あの方はまだ彼氏なんかじゃないわ!」
「ん?」
「そ、そりゃあ、彼氏だったらいーなー、なんて思ってるけど・・・」
「おーい?」
いやいや、私、『あの方』の事聞いてないよー。
「それに、あの方が裏でコソコソするなんて有り得ないわ!」

私の反応に構わず、カナちゃんはぐっと両拳を握り、力説する。
だめだ。こりゃ。
固めた拳を解き、今度は染めた頬を両手で押さえ恥ずかしがっているカナちゃんを見つつ溜息をついた。
と、ふいに後ろから声をかけられる。

「どうしたの? 九曜さん。宿題忘れたの?」
ん? この声は・・・
「リクオ君」

後ろを振り向くと大きなダンボールを抱えたリクオ君が立っていた。その横には両手に小さな旗を持った氷麗ちゃんが居る。
そう言えば、リクオ君は原作ではとても真面目な性格に描かれていた。
このリクオ君も原作と同じ性格と仮定したら、将来真面目な青年になるだろう。
あの呆れた男みたいにグチを陰で溢さずに・・・・
そう考えながらじーっとリクオ君を見ていたら、バッと氷麗ちゃんがリクオ君を庇うように前に割って入って来た。

「リクオ君に何か御用でしょうか?」

オホホホ、と顔を近付けつつ背中に黒いものを背負っている。

なんだか怖いよ? 氷麗ちゃん・・・
「あー、いや、リクオ君、真面目そうだから将来立派な人になるんだろうなぁって思ってただけで・・・」
「アラ? 判ってるじゃない。そうなのよ! リクオ君は将来立派な総大将に・・「わーっ!わーっ!」・・むぐむぐっ」

リクオ君はダンボールを放り、慌てて氷麗ちゃんの口を押さえると教室の隅に連れて行った。
そして何やらボソボソ話している。
多分、バラしちゃダメ、とか言っているのだろう。
リクオ君も大変だ。
ちょっぴり同情していると、頬を赤くしていたカナちゃんは、今度はリクオ君と氷麗ちゃんを見て訝しげな表情をしだした。

あー・・・ある意味リクオ君もコソコソしてる?

私は心の中で苦笑した。


そして、騒ぎ(?)が納まると私は午後の授業の為に、机の上へ英語の教科書とノートを出した。
と、ノートに挟まっているプリントを発見する。
回答欄は全く埋まって無い。

あ。これ・・・今日の宿題・・・・・・・
忘れてたー!!

そして今日も英語の先生に怒られる私だった。







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