「わっ!? 九曜綺羅!?」
「おや、綺羅さんも行きたいのかい?」

私が声を掛けると島君は驚きの声を上げ、清継君は探検へ興味を持ってくれた事への驚きの表情で私を見た。
だが、清継君はその驚きの表情をものすごく嬉しそうな表情に変える。

「はっはっはっ。流石、灯君のお姉さんだ。妖怪に会いたいなら、大歓迎だよ!」
「いや、別にそうじゃないけど……」
「ん? 何か言ったかい?」
「いやいや、何でもないです。」

本音を思わず呟いてしまった私に清継君は訝しげな視線を送ってくるが、ここで置いてけぼりくって別荘内で大きな妖怪に襲われては大変、と思い、慌てて首を振った。

は、は、は、妖怪に襲われて寿命が縮む思いをするなんて、パス!



到着したのが夕方だったので、すぐに夜になり、玄関口に清継君、島君、灯。そして私の4人が集まった。
ちなみに巻さんと鳥居さんには、護身用のスタンガンとサバイバルハンマーを渡しておいた。
必ずお風呂に持って入って、と一言添えて。
これで少しは妖怪に対抗できると思う。
そして、さあ、出発しようとした時、後方からリクオ君が大声を上げながら氷麗ちゃんと一緒に駆け寄ってきた。
原作通り、清継君を止める事の出来なかったリクオ君は、氷麗ちゃんと一緒に私達の一向に加わる。
そして、探索中またもや原作通り思い切りドジっぷりを披露する氷麗ちゃん。

…………。これほどまでのドジっぷり。山歩きに慣れて無いから?

私は妖怪スポット『一ツ目杉』の穴に詰まって手をジタバタさせながら、「妖怪のワナです!」と騒ぐ氷麗ちゃんを見ながら、こっそり頭を抱えた。

と言うか、氷麗ちゃんって確か年齢30以上だよね?
でも、精神は学生並みのような気が……
妖怪って30以上でも、長く生きるから氷麗ちゃんはまだ子供って事?
あれ?でも、妖怪って13歳で成人だったような気が……
成人に見えません。氷麗ちゃん。



そうして妖怪スポットと呼ばれる場所を回りながら、山の中を歩いていると突然前方を歩いていた清継君と島君の足取りがフラフラとしだした。

「ん? どしたの? 清継君。島君」

声を掛けるが返事は無い。
それどころか、2人はふらふらとしながら、右と左の二手に分かれた。
そして止まる事無く、先へ先へと進んで行く。

「灯! 清継君、捕まえて!」

そう言いつつ灯が歩いていた後方に振り向くが、そこには誰も居なかった。

灯が消えた!? なんで!?
さっきまで、珍しそうに周りを見回しながらも付いて来てたのに!?
もしかして、迷子!?

最悪な事態を想像し、眉を顰めていると前方からリクオ君の声が飛んできた。

「綺羅さんはそこに居て! ボク達、清継君と島君を追うから!」
「ん。判った」

私は前方に顔を向け、リクオ君の言葉に頷く。
リクオ君は私の返事を聞くと氷麗ちゃんと一緒に2人を追うべく、駆け出した。

「がんばれ、リクオ君」

私はそう呟き2人に手を振ると、近くの木の根に座り込んだ。

そこで待っててと言うからには、きっと迎えに来てくれるんだろう。
……って、あれ? 原作でリクオ君、迎えに来てくれる時間とかあったっけ?

私はまた原作の流れを思い出す。

確かこの後、牛頭丸と戦って、牛鬼と戦って……
帰りは翌日だったような……!?
迎えは期待出来そうにない。

私はハーッと深い溜息をつくと、立ち上がった。

「自力で別荘に帰りますか」

と、呟いた所までは良かったが、急に睡魔が襲って来た。

え? さっきまで全く眠く無かったのに、どうして?
って、言うか、いくら睡魔が襲って来たとしても、こんな所で眠りたくない!
負けるな、私! 睡魔に打ち勝つのよー!

気合いを入れたが、私はいつの間にか深い眠りについてしまっていた。



そして、また天使綺羅の夢を見る。
天使綺羅は淡い金の髪を風に靡かせながら、どこかの山の上空を飛んでいた。

この夢を見るのは2度目?
不思議な夢だ。

と、綺羅は山の中に何かを見つけ、急降下をした。
そして氷麗ちゃんを抱き締めながら驚くカナちゃんの目の前に降り立った。
天使綺羅は何も言わず微かに微笑みながら、白い手を氷麗ちゃんの赤に染まった足に重ねる。
するとそこから、淡い光が満ち、傷口が塞がって行った。
そして天使綺羅は自分のデニムジャケットを脱ぐと、カナちゃんの肩に掛ける。
その流れるような動作に、私は感心すると同時に昔のなりきりチャットでの天使綺羅の性格を思い出した。

確か、女性優先のフェミニスト。
天然タラシ天使。

私は複雑な思いに駆られる。
なりきりチャットは中身は自分だから別に恥ずかしく無かったのだが、端から見ると少し恥ずかしい。
そう思っていると、綺羅はカナちゃんの額にキスを一つし、眠らせると二人を両脇に抱え飛び立った。
そして別荘の2階のベランダに降り立つと、2人をベッドに運んだ。

流石だ。女の子を石段に放っておきたくなかったのだろう。うん。

と、天使綺羅は自分の胸に手を当てると口を開いた。

「私は女性が困っていたので助けただけだが、異世界の貴女は…これからどうして欲しい?」

ん? 何を言ってるんだろう?

「こちらの事情で呼んでしまった貴女だ」

何を言っているのかさっぱり判らず首を傾げていると、天使綺羅は顔を上げこちらを見、天使の名前と同じ私の名前を呼んだ。

「綺羅」

え? 私?
これって、夢じゃ、ないの?







- ナノ -