やって来ました。ゴールデンウィーク。
皆と待ち合わせの駅でタクシーから降りた私と灯は、駅の構内へと足を踏み入れた。
私はデニムジャケットを羽織りジーパンにスニーカー。そして背に茶色のリュックという、いでたち。
リュックの中には、お茶を入れた水筒に暇な時間に読む本とミニ救急箱。そして伸縮自在のサバイバルハンマー。80万ボルトのスタンガン(ライト付き)を入れていた。
サバイバルナイフを用意しようとしたのだが、良く考えるとナイフの使い方は素人。
もし妖怪に襲われても、ナイフでは倒せないだろう、と思いサバイバルハンマーを購入した。
サバイバルハンマーは、先がハンマーのようになっている鉄で出来た杖だ。
コンクリートブロックにこれを振り下ろせば、真っ二つに割れる。
妖怪対策はバッチリだ。

と、待合室の方向から「おーい! 九曜姉弟こっちこっちー!」という声が聞こえて来た。
声が聞こえた方に視線をやると待合室の入り口で、巻さんと鳥居さんが、手を振っている。
私は小走りで2人に駆け寄った。

「おはよー。巻さん。鳥居さん」
「綺羅、おはよー。別荘に温泉。すっご楽しみで眠れなかったわ」
「ねー。でも、妖怪修行とか無ければもっと最高なんだけどね」
「うん。確かに。」

2人の言葉にうんうんと頷いていると2人の後ろから清継君がニョッキリと顔を出して来た。

「君達。何を言ってるんだい!? 妖怪修行。最高じゃないか! 修行中、主に会えたら更に最高だけどね!」
「あー、はいはい。うっさいからあっち行ってな」

そんな清継君を巻さんはシッシッと手で振り追い払う。
だが、清継君は負けずに良く判らない妖怪理論で言い返し、巻さんは「へー、へー」と右から左に流した。

この2人。結構、良いコンビかもしれない。

微笑ましくて頬を緩めていると後ろから「みんな、遅れてごめーん!」と言う声が聞こえて来た。
後ろを見ると駅の入り口から駆け寄って来るリクオ君と氷麗ちゃんだった。
駆け寄って来た2人に、清継君は巻さんとの会話を中断させるとリクオ君に詰め寄った。

「本当に遅いぞ! 奴良君! 君が最後だよ! まったく、今日は妖怪博士に会うんだ。気合いを入れてくれなきゃ困るよ!」
「あはは。ごめん、ごめん」

リクオ君は眉を下げ苦笑いしつつ、謝る。

ん? でも、本当にリクオ君達が最後だった?

私は周りを見回す。
私の隣に鳥居さん。そして巻さん。その後ろにゆらちゃんと島君が佇んでいる。
そして待合室のドアの外に、灯君とカナちゃんが並んでいた。

って、カナちゃん!? もしかして真っ先に灯と挨拶をしてそのまま会話してた!?

私は思わず、遠くを見る。

いつの間にそんなにも灯と仲良くなったんだろ…
……お姉さんは寂しい。

とほん、と落ち込んでいるとグイッと左腕を引かれた。

「ん?」
「綺羅さん。ボーッとしてると置いてかれちゃうよ! ほら、行こう!」
「置いてかれる?」

不思議に思い、もう一度周りを見ると、皆、改札口の向こうを歩いていた。

いつの間に!?

リクオ君は、吃驚している私の手を握ると引っ張りながら歩き出した。

え?

「ちょ、手を繋がなくても……」
「ダーメ! 放っとくと迷子になっちゃうじゃん」

ど、どれだけ子供扱いー!?

ガシリと繋がれている手に肩を落としていた私は、耳を赤くしていたリクオ君に気が付かなかった。
そして、氷麗ちゃんの恨みがましいような視線も。



電車の中では、原作で読んだ風景が繰り広げられていた。
自分の額に1枚トランプカードを当て、自分以外のカードが全部見える状態で、自分のカードの大小で勝ち負けを決めるゲーム、インディアン・ポーカー。いや、清継君が考えた、妖怪ポーカーを皆でやっている。
しかし、私は中学生のテンションについていけず、少し離れた席で幽体離脱についての本を読んでいた。

そう。怪我をしたリクオ君を拾った日に購入した本だ。
幽体離脱とは、意識(あるいは霊魂)が肉体から離れている状態をいう。
うん。意識が本来の身体の中に無く、別人九曜綺羅の中に居るという事は、やはり幽体離脱が起きたと言う事だろう。
思い返してみると、この身体になる前、貧血のようなものを起こし意識がなくなったのだ。
多分、その時に幽体離脱をしてしまった。
そして何故かこの九曜綺羅の身体に宿ってしまった。
その何故かが判らない。
あと、何故この世界に来てしまったのかも謎だ。

「世界。次元……。今度は次元についての本を調べた方がいいかな……?」
「綺羅さん。何、読んでんの?」
「ん?」

リクオ君が通路側から顔をひょこっと出した。
私は、幽体離脱の本を何故か見られたくなくて慌てて閉じる。

「ちょっと、ね。どしたの?」

どうして私に声を掛けるのか、という意味を込めて尋ねると「綺羅さんは何が食べたい?」と尋ねられた。

うーん。食べたいもの?

私は自分のお腹に手を当てると考える。

「お饅頭も食べたい気がするけど、煎餅も食べたい気がする。いや、サックリクッキーも食べたいような……」

って、ん? なんで、食べたいものを聞くんだろう?

「どして?」
「うん。皆の食べ物買って来るから、綺羅さんもどうかな、と思ってさ」

その言葉に優しいな、と思うと同時にトクン、と心臓が強く脈打つ。

ん? トクン、って何? トクンって?

胸を押さえる私にリクオ君は笑顔を向けた。
何故かその笑顔が眩しくて、顔に熱が集まる。

「お饅頭と煎餅とクッキー、あったら買ってくるよ」
「う、ん……。お願いシマス」

あ、れ? 私……?
なんで、顔赤くしてんの?
もしかして……。いやいや、そんなハズ無い……。
この熱は気の所為!
車内がきっと熱いから!

私は手でパタパタと顔を扇ぐと顔の熱を逃がしつつ、頭の中へ出て来た仮説を否定した。

うん。あっついあっつい。







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