「若〜〜! すいません――!! 若が風邪をひかれて休んだのも知らず、学校へ行ってましたー!」

可愛らしい声と共にガラッと勢い良く障子が開かれた。
そこに現れたのは、浮世絵中の制服に身を包んだ人間に化けた氷麗ちゃんだった。

おぉ!? 氷麗ちゃん!?
人間バージョンって事は、もしかして今まで中学校行ってた!?

そう思っていると氷麗ちゃんは泣きそうな顔になり、枕元に居た私をドンッと勢い良く押し退けリクオ君の手を握った。

「若っ、大丈夫ですか!?」
「ん……氷麗?」

目覚めたばかりのリクオ君の声が聞こえるが、突き飛ばされた拍子に鼻を畳でモロに擦ってしまい、痛みに鼻を押さえた。

「いた〜っ」

ううっ、モロに畳で鼻を打ったよ。
絶対、赤くなってる……

そんな中、リクオ君は上半身だけ起き上がらせると周りを見回した。

「あれ? 綺羅さんは……?」
「そんな事どーでも良いです! 熱なんて私の力で……、40度――っ」
「わっ、氷麗ー!?」

熱いーっと飛び上がる氷麗ちゃん。

え? もしかして、火傷?

私は、眉を顰め鼻を押さえるのを止めると、氷麗ちゃんに近付き、その手を取り手の平を見る。

うん。お節介根性が出てしまったから仕方が無い。

じっと見てみると、手の平は赤くなっているだけだった。

「ん。大丈夫。爛れてない」

そう言うと呆気にとられていた氷麗ちゃんは、私の手をバッと振り払い今更の事を叫んだ。

「あ、貴女、九曜綺羅! なんでここに居るの!?」
「え? 昨日から居たけど……」
「えぇえ――っ!? 昨日から―!? わ、若っ、どーゆー事ですか!?」
「えっと、あはは……。ごめん。覚えて無い」

詰め寄る氷麗ちゃんに額に汗を流しつつ乾いた笑いを零すリクオ君。

こらこらこら。覚えて無いの!? リクオ君。
まあ、意識も虚ろだったし、仕方無いと言えば仕方無い?
でも、私は送り届けたら、そのままマンションに帰る気マンマンだったんだよ。お二人さん。

しかし、こういう事を言うと面倒な事になりそうな気がしたので、口を噤むとその場を立ち上がった。

「あ、綺羅さん?」
「ん。熱はあるけど大丈夫そうだし、私帰るよ」
「うん。ごめんね。迷惑かけて」
「気にしない、気にしない! 今度英語の宿題手伝ってくれればいーから」
「うえ!? 英語の宿題!?」
「若! 手伝いはこの私が!」
「え? 氷麗、英語出来るの?」
「根性でなんとかなります!」
「…………」

基本が判って無いとなんともならないような気がするけど、氷麗ちゃんは英語知らない気がする……。
ダメだ。こりゃ。

私は心の中で突っ込みつつ溜息を再びつくと、障子に手をかけた。

「んー。もう何もいらないよ。じゃね」
「ちょっ、待っ……綺羅さん……!」

ん? まだ何か用事があるの? とリクオ君を振り返る。
と、廊下の方から有り得ない声が上がった。

「え!? 綺羅ちゃん!?」

あれ? この声、カナちゃん!?

吃驚して声が聞こえて来た方向を向くと廊下にカナちゃん。そして後ろに清継君。島君。あまり話した事の無い巻さんと鳥居さん。最後尾に灯が佇んでいた。

なんで、清十字団が勢揃いーっ!?

「な、なんで……」
「え? リクオ君のお見舞いに来たのよ。綺羅ちゃんこそ、今日休んでたのになんでリクオ君家に居るの?」

キョトンと大きな目で見つめられながら問われ、私は返答に詰まった。

ううっ、どうしよう!







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