は、ははは。
右見ても左見ても、異質な物体達がうようよ動いてる。
これが噂の妖怪……っ


私は妖怪達のその異様な姿に気が遠くなりかけたが、怪我人のリクオ君がきちんと処置されるまでは!と心を奮い立たせ、首無さんと一緒にリクオ君を部屋へ連れて行った。

「若、どうしたんですかい!」
「若っ!」

心配する妖怪達を首無さんは部屋から追い出し、リクオ君を布団に寝かせると救急箱から包帯等を取り出し手当を始めた。
私も消毒液等を借り、手当の手伝いをする。

本当にひどい。
身体中、殴られた痕や蹴られた痣もある。
リクオ君を傷付けたのはヤクザっぽいあの声の主達だろう。
男の声だったから、ホストクラブの従業員の可能性が高い。
ふつふつと怒りが沸いて来る。

どうしてくれようか、と手当しながら報復を練っていると首無さんから声を掛けられた。

「こんなに怪我をされて……一体何があったんですか?」
「え? あー……何があったのかは知らないんですが…。一番街の入り口近くの書店から買い物終えて道に出ると、お店から放り出されるリクオ君に遭遇したんです」
「一番街に? 若は一体何を……?」

首無さんは顎に手を当て、不思議そうにリクオ君の寝顔を見た。
しかし目覚めていないリクオ君からは何も答えが聞き出せない。
首無さんは諦めたように一つ溜息をつくと、スクッと立ち上がった。

「お嬢さん。もう夜遅いですので泊ってって下さいね。隣に部屋を用意しますよ」
「い、いえ、そんな……」

妖怪達がひしめく家に泊まりたくないっ!

とは、口が裂けても言えない。
だが、首無さんは私が遠慮しているのだと勘違いして柔らかい笑顔を向けて来る。

「大丈夫ですよ。お嬢さんのお家の方には連絡しておきますので。それじゃあ……」
「ちょっ、まっ・・・!」

最後まで私の言葉を聞かないまま、首無さんは障子を開けて部屋を出て行った。
後に残された私は、口をパクパクする事しか出来なかった。



首無さんが居なくなった部屋は静寂が満ちていた。
その中、時折、リクオ君の小さな呻き声が洩れる。
その度に私は”心配しなくても大丈夫”という気持ちを込めて、リクオ君の頭を撫ぜた。
と、サラサラの髪を撫ぜながら、ふとある事に気が付いた。

ん? 原作で行くとこれって旧鼠事件?

私は原作を思い出す。

確か、清十字団の皆で奴良家に訪問した後、カナちゃんとゆらちゃんが旧鼠に捕まって、リクオ君が助けに行く。

って、この怪我で助けに行ける!? リクオ君!
絶対妖怪姿になっても、痣だらけなのでふらつく事間違い無し!
こんな時に何か役に立つ能力があればいいのに……

そう思いつつ、リクオ君の頭を撫ぜ続けていると、睡魔が襲って来た。

なんで、こんな時に睡魔ーっ!

目元を擦るが眠気は一向に去ってくれない。

リクオ君が行けなければ、私がどうにかして2人を助けに行こうと思っているのに……っ

だが、私はいつの間にかその場で眠ってしまった。




と、夢の中、頭の上に暖かい感触がすると共にリクオ君の声が耳元で聞こえる。

「ありがとう……。綺羅さん」



瞼の裏が白く明るい。
多分、朝。
でも、隣の何かがとても暖かくてもっとその暖かさを感じたい。
私は自分の欲求のまま、それにぎゅっと抱きついた。
と、ガラッと言う障子を開ける音がする。

「若、おはようございま………………失礼しましたっ!」

そして、首無さんの声がすると共に今度は勢い良く障子が閉められた。

何?

ぼやけた頭で目を少し開く。
と、そこにはリクオ君の顔が間近にあった。

はい?







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