奴良家に押しかけ……いや、訪れたのは、私、灯。そして、清継君。島君。カナちゃん。そして陰陽師の花開院ゆらちゃんの6人だ。
だが、通された部屋はリクオ君合わせて7人入っても、尚広い和室だった。

ひ、広い!

私は年甲斐も無く、キョロキョロと部屋の中を見回してしまった。

推定20畳は少なくてもある!

町中で20畳ある部屋を持つ家は、絶対少ない。
しかも、所々品の良さが漂う部屋だった。
床の間も広く、掛け軸も年代ものだ。
活けている花も可愛らしく可憐なものがチョイスされている。
原作でとても明るく描かれていたリクオ君のお母さんが選んだのだろう。
そして襖に描かれている絵も有名な人が描いたような感じで、気品が滲み出てる感じだ。

だが、何故か障子が風に揺らされガタガタ鳴る度に、カナちゃんが口元に手を当て怖そうにしていた。

こらこら。リクオ君に失礼な気がするけど、気の所為?


そんな中、清継君の誘導でゆらちゃんの妖怪レクチャーが始まった。
こんな子供なのに、あの呪いの人形を倒してくれたのだ。(ちょっとドジっ子さんだけど)

話しを聞いていて損は無い。

私は真面目な顔をゆらちゃんに向けて、話しに聞き入った。
だが、その話は原作通りのものだった。
呪いの人形は”付喪神”
妖怪の種類。そしていかにその妖怪達が危険な存在なのか、と言う事を語っていた。
しかし、聞いてるうちに引っかかるものを感じて首を傾げる。
超人的な存在も妖怪の中に入ると言うのだ。

超人的って、大体が神様を指すんだよね?
と言う事は、神様も妖怪?

妖怪にお祈りするなんて、妙な話しだなぁ、と思っていると、奥の襖が開き波打つ髪を後ろで結わえた美女が現れた。
その手にはお茶が入った湯呑を置いたお盆が携えられている。
美女はお茶を私達の前にしずしずと置くと「ごゆっくり」と言う言葉と共にまた襖の奥に消えた。

えーっと、今のは確か…………毛倡妓さんだっけ?

私は先程の美女の顔と原作の毛倡妓さんの顔を思い出し、照合する。
そんな私の脇でリクオ君は清継君と島君に詰め寄られていた。

「奴良君! 今のは誰だい!?」
「すごい美女! 奴良! お前のお姉さん!?」

何故かハニワのような顔になっていたリクオ君は、清継君に肩を揺さぶられる中ハッと正気を取り戻すと、清継君の手を振り切り美女を追ってダッシュで襖の向こうに消えた。

私は出されたお茶をすすりながら、原作と同じ展開だねー、とのんびり考える。

と、私の向かい側に座っていたカナちゃんが呟いた。

「そー言えば……、昔、お手伝いさんが居るって言ってたっけ?」
「今のがお手伝いさん……?」

上座に座っていたゆらちゃんが訝しげに口を開く。
そして周りをぐるりと見回すと「あのお手伝いさんもですが・・・この家も、変ですね・・・」と呟いた。

何か察知したらしい。
だが、生憎私はただの人間なので、ゆらちゃんが変だと感じる感覚は判らない。
流石、陰陽師!

心の中で拍手を送っているとゆらちゃんはスクッと立ち上がった。
そして廊下に面した障子をガラッと開け、どこかへ歩き出した。

は?

私は突然の事に呆気に取られる。
その中、ゆらちゃんの隣に座っていた清継君も立ち上がり、障子に手をかけた。

「よしっ! みんな、ボク達も出動だ!」
「はいっす!」
「ふふ……面白そうだね。僕も行こうかな?」
「わ、私も行く!」

清継君の号令にみんなはゆらちゃんを追うべく動き出した。
そして何が起こったのか判らない私を置いて、誰も居なくなった。

………………

「って、ちょっと待って! 常識。常識で判断しようよ! 皆!」

無断で人様の家の探索はまずいっ!

私も慌てて立ち上がり皆を追いかけようとすると奥の襖がガラッと開いた。
反射的に身体がギクッとなり、私はそちらをそっと振り向く。
と、そこには慌てて帰って来たリクオ君が立っていた。

「やあ、みんな。ごめん急に……って、あれ? 九曜さん。みんなは?」

リクオ君は不思議そうな顔をして部屋を見回す。
私は立ち上がりかけたままの格好で、あー、とかうー、と言いつつ、どう説明しようか悩んだ。
だが、どういう風に説明しても起きてしまった事は元に戻らない。
私は庭に面した廊下を指指し「みんな出て行っちゃった」と乾いた笑いと共にリクオ君へ伝えた。
すると驚愕するリクオ君。

「えーっ!? どうして止めてくれなかったの!? 九曜さん!」
「ごめん……」

何が起こったのか頭がついてかずに呆けてました。

思わず眉を下げ謝ると、リクオ君は私の見た事の無いような態度に目を瞠った。

こら。なんで珍妙なものを見たような顔するの!

「リクオ君。私も悪かったと思ったら、ちゃんと謝るんだよ?」

少し唇を尖らせて抗議すると、リクオ君は後ろ頭を掻きながら苦笑する。

「あ、はは、そうだよね……。じゃあ、ボク、皆を連れ戻して来るから、ここに居てね!」

そう言い残し廊下へ飛び出して行くリクオ君。私はその言葉に頷きながら、心の中で反論した。

リクオ君。私は人様の家を勝手に歩き回る事はしません。




カコーン、と鹿威しが鳴る中、黙って残りのお茶をすする。

うん。こうやって落ち着いてお茶を飲むのも良いなぁ……。

そうのんびりとした気分を味わっていると、閉めていたはずの廊下側の障子がまた開いた。

ん? 皆、戻って来た?

そう思い顔を上げ、開いた障子の方に視線をやる。
そこには、素晴らしく後頭部が長いお爺さんが立って居た。

この人って、この人って……
ぬらりひょんさーんっ!?
なんで、この部屋にーっ!?

目を見開き吃驚する私を尻目に、ぬらりひょんさんは顎に手を当てると不思議そうに私を眺めながら口を開いた。

「アンタ。どこの妖怪じゃ?」

はい?







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