今日は日曜日。
カーテン越しに朝の陽光が部屋の中に射し込んでいる。
私はベッドの中で、うつ伏せになったまま小さく溜息を付いた。
今日はあの「ぬらりひょんの孫」の主人公、リクオ君の家へ清十字団の皆で押しかける……もとい、訪問する日だ。
何故か私も奴良家に訪問するメンバーの中に含まれていた。

はっきり言ってダルイ。
私は休日は部屋でゴロゴロする派。
休日くらいゆっくりしてもバチは当たらないのに。

「と言うか、私、清十字団に入るって言ったっけ?」

ベッドの上でゴロンと転がる。
サイドテーブルの上の時計を見ると8時過ぎだ。
約束の時間まであと数十分。

「行きたくないなー……」

そうぼやいているとコンコンとノック音がした。
今、この部屋を尋ねて来るのは、弟の灯しかいない。
私はのっそりと起き上がると、そのままカギを開け部屋のドアを開いた。
そこには、いつ見ても美少年の部類に入る灯が立っていた。

服装は白のオックスフォードシャツに藍色のジーンズを履いている。
首元のボタンを数個外していて、そこから覗く鎖骨が眩しい。

って、どこ見てるの。私。
「どしたの? 灯」
「うん。姉さんがパスしないように声を掛けに来たんだけど、まだ用意もしてないと言う事は尋ねて来て正解?」

首を傾げニッコリと笑う灯の様子に、私は心の中を見透かされたような気分になり、気まずくて視線を逸らす。

「あー、用意は10分くらいで出来るけど、今ちょっとお腹が痛いかなー……なんて」
「ふふ。それじゃあ、医者に来て貰おうか?」

私は思い切りその言葉に首を振る。

「い、いや、寝てたら治る、治る!」
「重い病気だったら大変だよ? じゃあ、電話して来るね?」

緩やかな笑みを絶やさない灯は、私にとって非常にマズイ事をのたまった。

「いやいやいや。だ、大丈夫だから!」
「そう? じゃあ、早く用意しないと。パジャマで外出は拙いからね」

クスクス笑う灯に、私は丸め込まれ、結局行く事となった。
カクリと肩を落とす私に、灯は出て行く際爆弾発言を残して行った。

「あ、そうだ。僕と姉さん、清十字団にきちんと入ってるよ? 僕が清継君にお願いしたからね。ふふ…」

その言葉に開いた口が塞がらない。

「なんでーっ!!?」



やって来ました。
タクシーで奴良家の屋敷に。
他の皆は徒歩で来たようだが、何故か私と灯はタクシーだった。
何故皆と一緒に行かないのか、と聞いたのだが、清継君にタクシーで直接奴良家へ行く事を伝えていた灯は「内緒」と言って教えてくれなかった。

どこまでも続くように見える塀に囲まれた屋敷。
趣のある日本家屋。
そして、門から見える見事に咲き誇った枝垂れ桜。
門の外から見るとどこかの金持ちが住んでいるかのような屋敷だ。
だが、良く見ると障子の端が破れてたり、屋根にペンペン草が生えている。
家が大きいから手入れの行き届かない所があるのだろう。

でも、ここが「ぬら孫」の主人公の家だと思うと何か感慨深いものがある。
そう思っていると突然カナちゃんから話しかけられた。

「ね。綺羅ちゃん。灯君って妖怪の事に詳しいんだね」
「ん?」

一瞬何を言われたのか判らず、首を傾げる。

「だって、清継君と妖怪の詳しい話ししてるよ。ホラ」
「んん?」

指さされた方向を向くと門の前で灯と清継君が何かを話していた。そしてその2人の横で、「へー」「ほー」「そうなんっすか!」と島君が相槌を打っている。
清継君の目が煌めいていると言う事は、確かに妖怪の話しで盛り上がっているのだろう。
でも、灯が妖怪の事が詳しいだなんて知らない。

「清継君に話し合わせる為に妖怪の事、調べたんじゃないかな?」
「そっか。灯君って優しいんだね」
「優しい……かな?」
「うん! 優しいよ! それにカッコ良いし!」

頬を少し赤く染めて拳を固めて力説するカナちゃん。
私はその勢いに負けてしまい、コクコクと頷いた。

でも、カッコ良いって言うより、観賞用美少年って感じなんだけどなぁ……



そしてリクオ君が迎えに出て来てくれると、屋敷の中に上げて貰えた。
門から見えた二階の障子とかはボロかったけど、1階は綺麗だった。
廊下も毎日拭き掃除をしているのか、ツルツル光っている。
庭も大きいが整えられていて綺麗だ。

「金持ちだなぁ……」

そう呟くと先頭に立って歩いていたリクオ君が振り返り、手を横に振り苦笑する。

「別に金持ちじゃないよ。普通。普通」
「そうさ! 綺羅君! 金持ちはもっと良い所に住んでるよ!」
「そうっす! 綺羅さん! 清継君家の方がもっと凄いっすよ!」

リクオ君との会話に割り込む清継君と島君。
まあ、2人の言い分も的を得てる気がするけど、普通の家にこんなに広く立派な日本庭園は無い!
うーん? と考えているとカナちゃんの横を歩いていた灯が口を開いた。

「町中にこれだけの土地を持ってるだけでもお金持ちの部類に入ると思うよ?」
「あ! なるほど!」

これだけの広さの土地と屋敷を所持してるのもお金持ちの条件の一つに入るかも!
ふむ。と言う事は、もしも将来リクオ君のお嫁になったら玉の輿?
でも、掃除とか大変そう……

「やっぱ、パス」

私は溜息と一緒に独りごちた。







- ナノ -