指指した方向を見た皆は、不思議そうな声で口を開く。

「この人形がどうかしたの?」
「どこも変じゃ無いっすよ?」
「九曜君。皆が勘違いするような言動は謹んでくれたまえ」
「へ?」

私は皆の言葉に恐る恐るリクオ君の身体から顔を上げると人形の方を見た。
顔の歪みは無い。
無表情な普通の顔だ。

あ、れ?

「私の……見、間違い?」
「そーです! だからさっさとリクオ君から離れて下さい!」

ん? と思う間も無く、リクオ君の身体から氷麗ちゃんの手によって、バリッと剥がされた。
そして氷麗ちゃんは、私に人差し指を突きつける。

「私の目の黒いうちはリクオさ……君、には、指一本触れさせませんから!」
「こらっ! 氷麗!」

リクオ君は氷麗ちゃんを叱ると困ったように笑う。

「ごめんね。九曜さん。氷麗の言った事、気にしなくていいから」
「あー、私こそ、ごめん。突然しがみついて…」

(一応)同年代の女の子が突然しがみついて来たら困るよねー。

リクオ君すっとばして、清継君にしがみつけば良かったか、と反省をする。
でも、突然の事だったし、リクオ君しか手近な所に居なかったのだ。
だから、膨れないで頂戴な。氷麗ちゃん。
あははー、と心の中で苦笑をしていると後ろでカナちゃんが呟く。

「及川さん……。やっぱり、変…」
「ん? 何が変なの? カナちゃん」

それに気が付いた私は首だけ後ろを向かせると、その言葉の意味を尋ねたのだが、カナちゃんは何でもないよっ! と両手を顔の前で振り、誤魔化した。

ふむ。氷麗ちゃんの何が変だったんだろう?

原作での氷麗ちゃんの立ち位置を知っていた所為か、カナちゃんが違和感を覚える箇所が判らなかった。



また、周囲はシンと静まり返る。
その中、島君から日記を取り上げた清継君は続きを読み始めた。

「……捨てたはずの人形が座席に座っていたと言う。考えてみれば変だった。気付けば髪が伸びているように…」

と、読んでいる清継君の後ろにある人形の髪がモリモリと伸びて来ている。
皆は日記を読む清継君を見ていて、人形の様子に気がついてない。

いーやーっ 皆、気付いて! 髪、髪、髪――っ

私は震える手で隣に佇むリクオ君の腕をパッシパッシ叩く。
それに気付いたリクオ君は私の方を不思議そうな顔で見た。
それを確認した私は、人形を指指す。
と、リクオ君は驚愕に目を見開いた。
リクオ君の後ろに居たつららちゃんも吃驚したような顔をする。

「ほ、本物……!?」

リクオ君の呟きに私は無言で頷いた。

本物、本物! だから、私はパスしたかったのーっ
怖っ、怖っ

どこかに避難したいけど、足がガクガクして動けない。

い、いや、さっきは取り乱してしまったけど、私は大人。
大の大人が、こんなに怖がってちゃ情けない!
避難しようなんて考えては駄目!
子供を守らねば!

私はペンッと自分の頬をはたき気合を入れる。
そして呪いの人形が変貌を遂げる原因を素早く思い出した。

確か、原作では日記を読む事によって人形は変になる。

次に動かない足をバッシバッシ叩く。
そして動くようになった足を動かして、日記を読む清継君の元へ向かった。
日記を淀みなくスラスラ読み上げる清継君は私が近付いて来た事に気付かない。
私は清継君が片手で持っていた日記の綴じ目がある中央部分をむんずと掴む。

「清継君。読むのストップ」
「……おかしい、しまっておいた箱が開いている……、って何だい? 九曜君。邪魔しないでくれたまえ」
「あのね、それを読むと…」
「危ない! 九曜さん! 清継君!!」
「へ?」
「綺羅ちゃん、うしろぉ――っ!」







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