空には三日月がぽっかりと浮かび、その光で古びた旧校舎の形が闇の中でもはっきりと判った。
灯に集合場所へ連れて来られた私は、皆の一番後ろで嫌々ながら歩く。



うん。集合した場所は、原作で読んだ通り、グラウンドの近くにある池の傍だった。
集合したメンバーは原作通りだと思うので別に誰が集っているかと確認する事もなく、逃げられない現実に始終項垂れていた。
そして、清継君の掛け声で旧校舎へと皆足を進めた。
アスファルトの張られた坂道を登り高速道路の横の芝生部分に出ると、皆で車が来ないかどうか確認してそれを走って渡ったのだ。
って、言うか、旧校舎へ行くのに高速道路を走って横断するなんて危険極まりない行為だ。
でも、原作通りの風景を目の当たりにして、ちょっと怖くなる。
本当に原作の世界に居るんだな、と実感してしまうのだ。

こう実感してしまうと先が思いやられる。
と、言うか早く元の世界に帰りたい……
本当にどうやったら元の世界に戻れるのだろうか。

自分が本来居るべき世界の事を考えていると、先頭に居た清継君が旧校舎の裏口部分の鍵を開け、中へ入って行った。
こんな所に一人取り残されたくないので、私は皆について行く。
最初に旧校舎内部へ足を踏み入れた清継君は、興奮気味に声を張り上げた。

「おぉ!雰囲気あるね!妖怪が居そうだよ!いや、きっと居る!それが僕の闇の主への道標となるのさ!」
「流石、清継君っす!」
「はっはっはっ。もっと褒めていいよ。島君!」

前を行く2人の会話に、なんだか漫才を聞いてる気分になり、少し気分が浮上する。
ふむ。ただのゴーイングマイウェイな男の子だと思ってたのだけど、この不気味な旧校舎の中、その元気さが聞いてて気持ち良い。
2人の漫才もどきな会話を聞きながら、足元を照らす懐中電灯の光を頼りについていってると、突然バキッという音と共にガクッと足がベニヤ板の中にのめり込んだ。
それと共に足が前に出せなくなり、ベシャッと前に倒れ込んだ。

「っつー……なんでここ板が腐ってんの?」

足を穴から抜き出しつつ、まともにぶつけた鼻の頭をさする。
と、「大丈夫?」という声と共に手が差し出された。
見上げると、手を差し出してくれたのは、片手に懐中電灯を持ったリクオ君だった。

真っ先に困った人を心配して手を差し伸べきるなんて、なんて良い子!
くー、今すぐそのサラサラプリン頭をかいぐりかいぐりしたい!

心の中でリクオ君の優しさに感動しつつ、遠慮なくその手を掴り、立たせて貰った。
そしてリクオ君は私が立ちあがったのを確認すると、繋いだ手をそのままに「行こう!」と言い、歩きだした。
多分リクオ君は、また足を取られ転ばないように手を繋いだままにしてくれているのだと思うのだけど、なんだか、その行動に複雑な気分になる。

……なんだかこの図、子供扱いされているような気が…?
リクオ君。
心配してくれてるとこ悪いのだけど、私は中身大人なんですよ。ごめん。

そう思いつつ苦笑すると、私のその様子にリクオ君は不思議そうな顔をし、首を傾げた。



暗闇の中、踏むとギシギシという音を立てる廊下の上を私達8人は進んだ。
ある者は好奇心旺盛な目をキラキラと輝かせながら。
ある者はビクビクと怯えながら。

ん? 怯える?
そう言えば、原作ではリクオ君の背中にカナちゃんが掴まっていたような気が?

だが、カナちゃんはリクオ君の背中に捕まっていない。
確か手を伸ばしてくれた時もリクオ君の背中にカナちゃんは居なかった。

はて? カナちゃん、どこ行った?

疑問に思い、首を巡らせ周りを見てみると、なんと灯の服の袖にしがみついていた。


灯っ! なんて、羨ま……じゃなくて、なんで灯にひっついてるのー!? カナちゃん!?







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