駅前のマンションから浮世絵中学まで、徒歩通学だ。
今日も学校指定のバックを肩にかけ、学校に向かって歩いていると、前方にカナちゃんらしき人物を発見した。

朝から癒し1号発見!

私は心を浮き立たせながら、少し歩く速度を速めるとカナちゃんに追いつき、その肩をぽんっと叩いた。

「カナちゃん、おはよう!」
「わ。綺羅ちゃん!? びっくりしたー。おはよう」
「うん。昨日はありがと。おかげで英語の宿題終わったよ」
「ううん。どういたしまして! でも、綺羅ちゃん、授業中ちゃんと先生の話し聞かないから、綺羅ちゃんだけ宿題どっさり出されるんだよ?」
「えー……たったそれだけの事で宿題多く出す方が、大人気(おとなげ)無いと思う」

まったく、と文句を言うとカナちゃんは苦笑した。
と、今度は頭ぐりぐりしたい、癒し2号を前方に発見した。
因みに、カナちゃんはその可愛さで、そして奴良リクオ君はそのプリンに似たサラサラ2色頭の手触りによって、私に癒しを与えてくれているのである。
うん。先日さりげに撫ぜさせて貰ったのだが、とても柔らかかった。

この世界に来て良かった事と言えば、癒しの2人に出会った事。
まだ夜リクオ君には会った事無いけど、妖怪とかに関わって怖い思いするのは嫌なので、会うのは遠慮したい。
うん。このまま穏やかな日々を送りつつ、帰る手掛かりを見つけ、いつか元の世界に帰れればそれで良いのだ。
いつ元の世界に帰れるか判らないけど……

はぁ、と思わず遠い目をしていると、前方で「キャッ」とカナちゃんの悲鳴が上がる。

ん?どうしたの!カナちゃん!!

私はカナちゃんの可愛い悲鳴に思考を現実に戻し、前方に目を向けるとリクオ君がカナちゃんに「ゴ、ゴメンなさい!!」と謝っていた。
カナちゃんは、胡乱(うろん)な目をして、リクオ君を睨んでいる。

ん?カナちゃん、いつの間にリクオ君の所へ?
挨拶しようとリクオ君に声をかけに行ったのかな?
でも、リクオ君。カナちゃんに怒られていると言う事は、何か悪さをした?

はて? と首を傾げるが、まあ、子供の喧嘩に大人が出るべきでは無い、と思いなおし静観する事にした。
と、怒られているリクオ君は、何故か後ろに居る私を見つけると腕を上げ「おはよう!九曜さん!」と声をかけて来る。
律儀な私は「おはようー」と片手を少し上げ、挨拶を返したのだが、リクオ君の横に居るカナちゃんはまだご立腹で、胸の前で腕を組み頬を膨らませていた。

本当に何をしたのかな? リクオ君……



そして、3人で教室に向うと私達の教室はいつもよりも騒がしかった。
何かあったのかなー?と首を傾げながら教室に入る。
と、前方の教壇の方で「キャー!清継君、カッコいいー!」と黄色い悲鳴が聞こえて来た。

ん? 清継君? 
もしかして、あの清継君!?

私は『ぬら孫』内で目立つ存在の天然パーマキャラを思い出し、バッと教壇の方を見る。
が、女の子達に囲まれていて、頭の先っちょしか見えない。

漫画ではクローズアップされて描かれてたけど、実際は囲まれてて見えないなー…

そう思っていると、女の子達の輪が割れ、そこから天然パーマの男の子、清継君が現れた。
清継君はつかつかとこちらに近付いて来る。
うん。漫画ではあまり判らなかったが、清継君、背がすごく高い。
170cmくらいある。

中学1年で、こんなに成長してるなんて、発育良いね!君!

心の中でそう思っていると清継君は若干引き気味のリクオ君に向かって口を開いた。

「奴良君……昔は馬鹿にして悪かったね。ボクはあの時以来、真実に目覚めたんだよ」
「へ?」

きょとんとするリクオ君とその横で首を傾げるカナちゃん。
私は既視感に眉を寄せた。

この状況って、何か覚えがあるなぁ…
どこかで見た?

首を捻る私に構わず、リクオ君と清継君との会話は続く。

「そう。あの時、ボクの夜の帝王に会ってから目覚めたんだよ! ボクはあの方の悪の魅力に惚れたんだ。もう1度あの方に会いたい! と、言う事で妖怪好きな奴良君。協力をお願いする!」

背の高い男の子は、一気にそう言い切るとリクオ君の肩をガシリと掴んだ。
リクオ君は「うぇえぇえー!?」と驚いている。
その中、私の隣に居るカナちゃんがポソリと呟いた。

「あー、あの時の…あの方?」
「あの時って?」

私は思わずその呟きに問いを投げかけた。
いや、だって何か覚えのある話しだけど、イマイチ状況が判らない。
判らない事は、きちんと確認をする。
これは、社会に出て嫌という程学んだ事だ。
きちんと確認しないと、後々トラブルの元となる。

カナちゃんは私の言葉に、え?という顔をすると、考え込んだ。

「あれ? 何か拙い事聞いた?」

それだったら悪かったなぁ…と心の中で反省しているとカナちゃんは「信じられないかもしれないけど…」と前置きをし、簡略的に小学校3年生の時にあった出来事を話してくれた。
その話しは、原作の1巻で読んだものと全く同じ内容だった。
そして、夜のリクオ君の所で頬を少し染めだす。

!!! カナちゃん。可愛いっ…

その様子に思わず、頭を撫ぜ撫ぜしたくなった。
と、そんなカナちゃんを見てほんわかしていた私に清継君が声をかけてきた。

「やあやあ、君も奴良君と行動を共にしていると言う事は、妖怪の事に興味あるんだよね! 君も一緒に旧校舎の探検に来たまえ!」

は?
旧校舎の探検?

その言葉に1巻の旧校舎の話しが頭の中に蘇る。
『ぬら孫』好きな私としては、最新刊まで粗方の内容は頭の中にインプットしているのだ。
まあ、細かい所は忘れてるけど。
それはさておき、旧校舎の話しの内容は、夜に清継君、島君、そしてリクオ君とカナちゃん。あと隠れて護衛をしていた雪女のつららちゃんと青田坊の6人が古びた校舎に探検に行く事を思い出す。

そして、リクオ君が陰で妖怪倒しに奮闘しつつ、話しが進められ、最後に清継君達が妖怪に遭遇して気絶するんだよね?
……私は妖怪見て怖い思いしたく無い。

「と、言う事で、パス」
「何が「と、言う事」なんだーい!? これは素晴らしい探検になるんだよ!? なにしろ妖怪の主に会えるんだからね!」
「いやいや、今日は用事が…」

更に言い募る清継君になんとか諦めて貰おうと首を振っていると、横から灯の声が割って入って来た。

「清継君。姉さんは用事無かったはずだから、僕がきちんと連れて行くよ。安心して?」
「はいっ!?」
「おぉ!?君は噂の転校生、九曜灯君!!ありがたい!協力感謝するよ!」
「いえいえ。役に立てて良かった、かな?」
「待って、待って!?」

私の言葉も聞かず、ガシッと手を握り合う灯と清継君。

何故私も旧校舎行かないといけないのー!!

私は心の中でムンクになった。


そして今日も英語の宿題をどっさり出されたのだが、灯に引きずられて集合場所へと向かった。


ううっ、怖いの嫌ーー!!







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