元旦。ワカメ君たちと一緒の初詣も済み、リクオ君と一緒に奴良家に帰った。
と、まだ広間では宴会が続いている。
開け放った障子の傍で佇む私達は顔を見合わせると時計を見た。
奴良家を出た時は午前中だったのだが、参拝の後も清十字怪奇探偵団の皆と話していたので、今は17時過ぎだ。
リクオ君はどんちゃん騒ぎをする妖怪さん達を見ながら頭を掻くと、仕方なさそうに笑いため息をひとつ付いた。

「今朝は酔いつぶれてグッタリしてたのに、また飲んでる……。まったく仕様のない奴らだな」
「宴会が好きなんだね」

思ったことを呟くと、リオ君は微笑んだ。

「うん。陽気なヤツらが多いんだ。」

明るい笑顔が眩しい。
優しい所も好きだけど、この笑顔も好きだなぁ…と思っていたら、リクオ君は私の右手を握る。

「ここじゃあ、ゆっくり出来そうもないから、ボクの部屋でゲームでもしよう!」
「うん!」

私は素直に頷いた。


リクオ君の部屋に着くと、そこには小さなコタツとストーブが置かれていた。
帰ってきても寒くないように、ストーブとコタツにはスイッチが入れられている。
その部屋はとても暖かかった。リクオ君にコタツを勧められる。
素直にコタツに入るとリクオ君は棚を物色して、ようやくゲームを探し出し、コタツの上においた。
それは人生ゲームだった。

わっ、あまりやらないから、ドキドキする。

興味津々でゲームを見ているとリクオ君はサラッと吃驚するような事を言った。

「妖怪任侠ゲーム。鴉天狗監修なんだ」
「へ?」

妖怪任侠ゲーム?
マス目をよく見ると『出入り』とか『戦闘』とか書かれてある。
って、鴉天狗さんお手製の人生ゲーム!?

「じゃあ、やろっか」
「うん」

鴉天狗さん、すごいなぁ、と思いつつも私はお手製の駒を手に取った。


「リクオ君、すごい!」
「いや、たまたまだよ!」

あはは、と後ろ頭を掻きながら笑うリクオ君。

流石、インディアンポーカーが強いだけあるかもしれない。
絶妙なところでサイコロが止まり、出入りの結果は勝利ばかりだ。
私はというと、勝ったり負けたり。普通。

リクオ君って勝負運が強いのかな?

と、ふいにリクオ君が廊下に面した障子を見ると首をかしげた。

「天也さん、現れないね」
「え?」

天也お兄さん?

天也お兄さんは大晦日前に一度帰って来るよ、と言って出かけたままだ。

あれ?
天也お兄さん。リクオ君には伝えなかったのかな? なんでだろ?
はて?

首を傾げると、私を見ていたリクオ君は突然首をプルプルと振り、「何考えてんだ、ボク!」と言い、自分の頭をゴンと殴った。

「リクオ君!?」
一体どうしたの!?

吃驚して目を見開くと、リクオ君は苦笑いをし、「あはは、なんでもない、なんでもない」と手を振った。

ううん、なんでもないハズないよ!
突然、自分の頭を拳骨で殴ったりしない!
あ……、天也お兄さんの事を聞いてたけど、もしかして天也お兄さんの事心配してるのかな?
数日姿見せないから、心配になってるのかな?

私はリクオ君を安心させる為に笑顔で口を開いた。

「大丈夫だよ。天也お兄さん。お父さんの所にしばらく帰ってるだけだから」
「そうなんだ…」

リクオ君は私の言葉に少し考えるそぶりをすると、真顔になり私の名前を口にした。

「響華ちゃん」
「はい?」

私の両手をそっと暖かい手で包み込む。

「大好きだよ……」

その真摯な言葉に心臓がドキンッと大きく飛び跳ねた。

突然どうしたの!? リクオ君!?
でも、私も……私も…
「私も、大好き……」

私はリクオ君の澄んだ栗色の目を見つめた。
すると両手を握る力が少し強まる。
そして少しずつ、リクオ君の顔が近づいてきた。私も目をそっと閉じる。
数秒後、唇同士の距離がゼロになった。

柔らかくて、暖かい。
リクオ君と触れ合っていると思うと、胸の奥がジンと熱くなる。

リクオ君。リクオ君。大好き。

と、突然後ろ頭に片手を回され唇を強く押し付けられた。

「んっ、?」
リ、クオ君?

先程とは違う強い口付けに驚き目を開けると、そこには銀の髪を持つ妖怪に変身したリクオ君の「姿があった。

え? なんで変身?

戸惑っているとリクオ君は熱くぬるついた舌で、私の唇と歯列を舐めた。

「リ、……んぅっ…」

リクオ君の名前を呼ぼうと口を開くとぬるついたそれはスルリと口内に侵入して来た。
舌がくちゅりと絡められ、唾液ごと吸われる。
熱い舌が絡まる度に、甘い痺れがそこからジンと広がった。

「ん、ふ……んんっ」

蕩けるような痺れに身体の力が徐々に抜ける。
と、横から軽い箱の落ちた音がすると、リクオ君の腕から抱き寄せられ、私の身体はいつのまにかリクオ君の膝の上に収まっていた。

きもち、いい
触れ合っている場所が溶けてしまいそう。
大好き、リクオ君……

私は唇を合わせたまま、リクオ君の首の後ろに手を回すとぎゅっと着流しを握った。


どのくらい深い口付けをしていただろう。
やっと細い銀の糸を引きながら唇が外された。
身体はクタリと力を失い、息が上がる。
そんな私をリクオ君は愛しそうに見ながら目を細めた。

「愛してるぜ。響華……」
「ん……、わたし、も……」

服越しに感じるリクオ君の身体の熱が愛しい。
ずっとずっとリクオ君の温もりを感じてたい。

私は力の抜けきった腕を持ち上げ、もう一度リクオ君の首の後ろに腕を回すと抱きしめた。
するとリクオ君は力の抜けた私の身体を抱きしめ返し、角度を変えながら、また唇を重ねて来た。
口内にまた舌を侵入させ、ちゅくちゅくとぬるついた舌が絡まる。

「んっ……」

また甘い痺れが体中に広がる。
私は蕩けるような痺れに溺れた。

愛してる。ずっとこのままでいたい…

そして、溶けるような甘い幸せに身を投じた。







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