リクオ君は鯉伴さんの顔を見ると、少し不機嫌そうな顔で口を開く。

「帰って来るのが遅いよ。父さん…」
「なあに、こんくらいで弱音吐くようじゃ代紋はくれてやれねぇぜ?」
「もう! そんなんじゃないよ!」
「本当かねぇ……」

そう言いつつ鯉伴さんは、からかうような笑みを浮かべながら片目を閉じ、リクオ君の傍に腰を下ろすと傷口に手をかざした。
すると見る間に傷口が消えて行く。

すごいなぁ……

そして2人を妖怪達の好奇の視線から隠すように囲む、青田坊さん、氷麗ちゃん、首無さんもその光景を見ながら口々に囁いた。

「流石2代目。いつ見ても、すげぇ技だぜ…」
「あれが噂のお祖母様譲りの力なんですね……」
「そうだな……」

おばあさん?
あ、もしかして8巻くらいに出てきた珱姫の事を言ってるのかな?
そっか。珱姫さんもこんな風に病人を治療してたんだなぁ……
本当にすごい。

そう思いつつ鯉伴さんの隣でその光景に見入っていると、治療を終えた鯉伴さんはペンッとリクオ君の頭を叩いた。

「イテッ! 何すんだよ、父さん!」
「怒鳴る元気がありゃあ、もう平気だな……」

鯉伴さんはスクッと腰を上げ、またニッと笑った。
そして私の腰に手を回すと「帰ぇるぜ」と周りの妖怪さん達に声を掛け、道を歩き始めた。
それに伴い、周りの妖怪さん達もゾロゾロと後を付いて来た。

「ちょっと父さん! 待ってよ!」

そして、リクオ君の慌てたような声が後ろから聞こえたが、鯉伴さんは不敵な笑みを浮かべたまま、立ち止まる事は無かった。


結局、隠神形部狸さんとその息子さんは、連れだって四国へと帰って行った。
仲間や眷属を殺し、あまつ父親を殺そうとした息子なのに、子供は全て可愛いのか隠神形部狸さんは、項垂れる息子さんの背中を抱えるようにして電車に乗った。
それを見送るぬらりひょんさんは「甘ぇのう……」と呟いていたが、過保護っぽいぬらりひょんさんも、もしリクオ君が玉章のような事をしても、最後の最後には許すかもしれない。
私は、一緒に隠神形部狸さんを見送りながら、そう考え苦笑いを零した。

でも、ここ数日の出来事……。
何かが、ひっかかった。
何がひっかかっているんだろう?

私は、覚えている限りの原作の知識を思い出す。

確か、四国の妖怪が攻めて来たと言う事だから……四国編だよね?
えっとこの話しは、色々な出来事があって、最後にリクオ君がその大将を倒すんだよね?
でも、鯉伴さんが最終的に敵を降したから…、違和感感じるのかな?

と、幼い頃にお母さんから言われた言葉が、突然脳裏に蘇って来た。

『あんた、鯉坊の未来が視えたんだろうけど、鯉坊にその事伝えれば鯉坊の運命が狂い、自然の摂理……そうだねぇ、大きな命運の流れっていうやつが狂ってしまうんだよ? それによって歪みも生じる時もあるんだ。大きな流れを変えれば変えるほどね』

鯉伴さんが生き残った事でリクオ君のお母さんが死んでしまった。
私が流れを変えてしまったから。
じゃあ、この違和感は、もしかしたらまた何か変えてしまった事があるって事?
一体、何を……?

考えても判らない。
しかし、鯉伴さんが最後に参戦した事で、ある事が変化してしまった事を知るのは、もう少し先の事だった。







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