私は四国や奴良組の妖怪さん達がひしめく中、鯉伴さんの姿を探す。
すると隠神形部狸さんの息子さんの左手に持っている刀が、突然何かに蹴りあげられた。
と、いつの間にか隠神形部狸さんの息子さんの傍に姿を現した鯉伴さんが、懐から取り出した短刀を隠神形部狸さんの息子さんの首元に突き付ける。
周りで「2代目!?」と驚きの声が上がるが、鯉伴さんはそれをスルーし鋭い眼で隠神形部狸さんの息子さん、玉章を見る。

「く…っ、お前は一体っ…!」
「オレが誰だっていい……。それよりてめぇの尻拭いをしてる親父を隙見て殺そうたぁ、見過ごす事ぁ出来ねぇな……。そりゃ、下衆(げす)のやる事だ……」
「なん、だって!? ボクの……どこがっ! それに、親でもこの玉章の為に死ねば、名誉な事なんだよ……っ!」

ふらつきながらも叫ぶ玉章のその言葉に鯉伴さんは、片眉をあげ悲しみに身体を震わせる隠神形部狸さんを見た。

「どう言う教て方したら、こういう息子が出来上がるんだい?」
「誠に申し訳ない……。」
「やめろ! ボクは……、あの刀さえあれば、まだ、やれる!」

玉章は斬られた右手を押さえながら、周りを見回し、数メートル先に蹴り飛ばされた刃がボロボロの刀を見つけると、それに急いで手を伸ばした。

「おっと……」

だが、鯉伴さんはそれを許さず、喉に短刀の刃を喰い込ませる。

「それ以上動くと、首と胴がおさらばだぜ?」
「く……そっ!」

玉章は悔しそうに歯ぎしりをした。
と、青田坊さんがその刀を拾おうと前に進み出る。

「狸の親分よお、これは没収だ。」

その時、上空から意味不明の文字を書いた布を顔に巻き付けた女性が舞い降りて来た。
背中には黒い翼を生やしている。
その女性は青田坊さんより先に刃がボロボロの刀を拾うと無言で胸に抱いた。

「おい、嬢ちゃん。それをこっちに渡してくれ」
「夜雀! 良くやった……! それを早く、ボクの元へ!」

スッと大きな手を伸ばす青田坊さんと、女性に向かって叫ぶ玉章。
しかし、その女性は2人の言葉に耳を貸さず、ふいっと上を向くとそのまま飛び立って行った。
そして、玉章のあらぬ限りの叫び声が辺りに響いた。

「夜雀ぇえええ―――っ!」

夜雀っていう妖怪さん……
隠神形部狸さんの息子さんの味方じゃなかったの?
それに、あのボロボロだけど変な形に変形してた刀……、どこに持っていくんだろ……?

私は羽ばたいて行った夜雀という妖怪が遠ざかり小さくなっていくのを首を傾げながら、見送った。


そして戦いは朝日が半分くらい昇った頃、玉章が諦めたように動かなくなった事で終結した。

「2代目、帰って来るのが遅いですよ!」
「いつお戻りになるか、組員一同ハラハラしてたんですよ!」

戦闘が終了すると、鯉伴さんは文句をブーブーと言う下僕達に囲まれる。
それを遠巻きに見ていると、「響華ちゃん」と名前を呼ばれた。
鯉伴さんに向けていた視線を元に戻すと、そこには首無さんと氷麗ちゃんに支えられたリクオ君が立っていた。
リクオ君は、離れて見た時よりも怪我が酷い。
その酷さに無意識に眉を寄せてしまった。

どうしよう!
手当したくても傷口が多くて持ってるバンドエイドじゃ足りない…!

でも、少しでも血を止めたくて、私はポケットからハンカチを取り出すと頬の傷にそっと添えた。

「イテッ」
「わっ、ごめんなさい!」

慌ててハンカチを離すとリクオ君は慌てたように首を振った。

「あ、ごめんっ! それが痛かったんじゃなくて、その……」

あはは……、私が謝った事、気にしてるんだ…。

私はその言葉に、反対に気遣わせてごめんなさい、と言う意味を込めて、リクオ君と同じように首を振った。

でも、早くこの酷い傷をどうにかしてあげたい。
あ……!

私は鯉伴さんの能力を思い出す。

そう言えば、小さい頃から火傷とか治して貰った事がある。
でも、滅多にその力使ってる所見た事ないから、秘密にしているのかもしれない。
でも、でも、今はそう言ってる場合じゃない!

私は鯉伴さんの方を向くと、リクオ君に「ちょっと待っててね!」と言い、駆け出した。

下僕の妖怪さん達に囲まれた鯉伴さんの元に行くのは一苦労だった。
様々な妖怪さん達を集めたのか、身体の大きい妖怪さん達がたくさん居る。
そんな妖怪さん達を一生懸命かき分けながら前進したのだが、なかなか前に進まない。
私は焦りでいっぱいになり、大きく声を上げた。

「あの、通して下さい!」
「おやあ、あんたは確か2代目の御子だったよなぁ」
「ははは、ちんまいなぁ」
「2代目に用事かい?」

私の声に妖怪さん達は、すぐに気がついてくれ、ざあっと道を開けてくれた。

「あ、りがとうございます!」

私はその道を駆けると鯉伴さんの元に辿り着いた。
鯉伴さんは私を見ると不思議そうな表情をする。

「どうした。オレが恋しくなっちまったのかい?」
う、え?

思わず、目的を忘れて何故か頬に熱が集まる。

って、赤くなってる場合じゃないよ、私!

私は熱を冷ますように自分の手で両頬をペシペシと叩くと、鯉伴さんの袖を引っ張った。

「リクオ君が酷い怪我なの。早く治してあげて下さい!」

そんな私の言葉に鯉伴さんは頭をポリポリと掻いた。
そして私を見、しばらく腕を組み考えるとニッと笑う。

「わかったぜ。響華ちゃん。でも、この礼はしっかり貰うぜ?」

そして、周りの下僕さん達に軽く手を上げると歩きだした。

お礼って、えっと、やっぱりキス……だよね?
ううっ…恥ずかしい……っ
でも、治して貰うのはリクオ君だから、リクオ君に言えばいいような……?
あれ? でも、でも、お願いしたのは、私だから、やっぱり私??

ぐるぐるしている間に、あっと言う間にリクオ君の所に着いた。







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