授業が全て済むと清十字怪奇探偵団の活動が有った。
いつの間にか確保された空き教室にての活動だった。
もしかしてお金使ったんじゃないわよね?とカナちゃんが憶測を飛ばしたのは2人だけの秘密だ。
そして、清継君は皆に自作の『全国妖怪分布図』を公開し、その地域による妖怪の特性とかをテンションマックスで話す。
でもその声は、私の耳には全く入って来なかった。
頭の中が、鯉伴さんの事でいっぱいだったからだ。


朝食の時覚えた引っ掛かりは皆と居た時は引っ込んでいたが、授業中にまた胸の奥から沸き起こって来た。
そして、今に続いている。

鯉伴さん……夜、女の人と一緒にいたんだ……
きっとボンキュッボンの美人さん。

私はカナちゃんの隣に立ちながら、机に寄りかかって鳥居さんと話している巻さんを見る。

巻さん美人だし、胸も大きいし……鯉伴さん、巻さんみたいな女性が好きなんだろうな……
私は…

自分の胸を見て、ヘコむ。

巻さんに比べたらちっちゃいよね。

胸が痛い。
なんだか、泣きたくなった。

「……ちゃん。……、響華ちゃん!」
「え?」

突然自分の名前を呼ばれ、慌てて顔を横に向けた。
カナちゃんが心配そうな顔で私を見ている。

「響華ちゃん。どこか痛いの? 泣きそうな顔してるわよ」
「う、ううんっ! なんでもない、なんでもない! 大丈夫!」
「ホント……?」

慌てて首を振って否定するが、カナちゃんはまだ心配そうな顔をして私の顔をじっと見た。
私はカナちゃんを心配させるのは嫌なので、頭をフル回転させ、上手な言いわけを捜す。

「え、っと。うん。今日の宿題多かったから、明日まで出来るかな?って考えてたの」
「そうなの? じゃあ、今日の宿題一緒にする? 隣同士だから遅くなっても平気だし」
「え、ううん、一人で大丈夫だよ?」
「もう。遠慮しないの!」

えっと、一緒に勉強したいけど、私、リクオ君家に昨日から御厄介になってるし……
と、言いたいが、そんな事言えない。

墓穴掘っちゃった!? どうしよう。

内心オロオロしていると、氷麗ちゃんがツカツカとこちらに近寄って来、口を挟んだ。

「ちょっと、家長! 響華ちゃんを困らせないで!」
「何言ってるのよ。私、困らせてないわ」
「いいえ。響華さ、…ちゃんの眉がこんなに下がってるじゃない! 困ってる証拠です!」

え!? 眉毛下がってた!? うそ!

ビシッと眉を指指され、私は慌てて両手で眉を隠す。

「カナちゃん……、私は……」
「響華ちゃんは黙ってて下さい! 今日は家長にビシッと言ってやります!」
「ちょっと……なんで響華ちゃんと私の事に口出しするわけ? 及川さんに関係無いじゃない!」
「大アリです!」

私の目の前で、氷麗ちゃんとカナちゃんの言い合いが続く。
当事者なのに、口を挟めない。

ううっ、氷麗ちゃんもカナちゃんも止めようよ。

更にオロオロしていると誰かに右手を引かれた。
そちらを見ると苦笑しているリクオ君が居た。

「リクオく……」

名前を口にしようとすると、リクオ君はシーッと言いながら自分の唇の上に一本指を立たせた。
そして、巻さんと鳥居さんの方を見ると小声で「ボク達先に帰るから」と伝えると、私の腕を掴んだまま部室を出た。
きっとラチがあかないと思って、私を連れ出してくれたんだろう。

でも、2人をあのままにして来て良かったのかな?

フーッと溜息をつくリクオ君に私は心配げに声を掛けた。

「リクオ君。カナちゃんと氷麗ちゃん。あのままにしといて良かった?」
「氷麗なら大丈夫! それより響華ちゃんこそ平気?」
「え?」
「あ、いや。平気だったら別にいいんだ。さっ、帰ろうか!」
「うん」
???

良く判らないリクオ君の言葉に首を傾げながらも私はリクオ君と一緒に学校を出た。


6月の末は夏に入る時期だから、日が長くなっている。
もうすぐ18時だが、空にはまだ夕焼けが広がっていた。
アスファルトの地面を歩きながら、私はその空を見上げる。

「明日も晴れ、かな? 梅雨明けまだ先なのに、晴れの日が多いね」
「うん。今年は雨量が少ないかもしれない。…ってウチの池の水大丈夫かな?」

眉を顰めて悩むリクオ君。

確か、池に河童さんが住んでるんだよね?
水が無くなったらお皿が乾いちゃう!?

思わず後ろに歩いている河童さんを振り返ってしまった。
護衛の皆は私とリクオ君が学校の門を出ると後ろに現れ、一定の距離を置いて着いて来ているのだ。
距離は約5メートルくらい。
多分、人間がたくさん居るから、目立たないように着いてきてくれてるのだろう。
しかし、離れているからか、会話が聞こえない。
何故、私が後ろを振り向くのだろう?と護衛の皆は首を傾げていた。
もちろん河童さんも首を傾げている。
私はそれに苦笑すると、前に向き直った。

でも、河童さんのお皿の形って普通のお皿の形してないよね?
ツルッとしてるし……。
水を入れても零れそう……
あの形で乾かないようにするにはどうしてるんだろう?

つらつらと考えてると、突然誰かに左肩を掴まれると、生暖かく湿ったなにかが、私の頬をペロッと舐めた。

「っ!?」

何!?







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