今日は日直なので、少し早目に家を出た。
そして黒板を綺麗にしていると、学校に着いたばかりのカナちゃんに声を掛けられる。

「響華ちゃん、おはよう。昨日は大丈夫だった?」
昨日?
その言葉に昨日の火事の事を思い出し、ドキッとする。

カナちゃん、もしかして昨日起こった事知ってるの!?
でも、カナちゃん居なかったし、そんなはずないんだけど…

そう思いつつカナちゃんを見ていると、カナちゃんは「元気そうだし、治ったんだ!」と言葉を続けた。

あ、そう言えば、昨日その理由で学校を休んだんだった。

ピーマン料理を食べ切れ無くて休まなくてはいけなくなった事を思い出し、胸をホッと撫ぜおろす。
と、カナちゃんは急にその笑顔を曇らせ小声で囁くように私に問いかけて来た。

「ねぇ、この間旧校舎に行った時居た女の子とリクオ君が知り合いだって知ってた?」
「え? 女の子?」
「そう! 髪の長い女の子よ…!」

私はこの前の旧校舎のメンバーを思い出す。

天然パーマの男の子にうちのクラスの島君。
そしてリクオ君とカナちゃんに…人間に化けたリクオ君家の妖怪さん2人、だったよね?
髪の長い女の子って言うと、奴良家の女妖怪さん?
リクオ君から奴良家で一緒に住んでる妖怪さんと聞いただけなので、私の知ってる妖怪さんなのかどうか正体は判らない。

「その子、今朝リクオ君のお弁当持って来てたの。なんでリクオ君のお弁当持って来てたんだろ…。もしかして…こ、恋人なのかな?」

眉を顰めながら考え込むカナちゃん。
私はそんなカナちゃんの様子を見ながら、首を傾げた。

うーん。なんて答えたらいいんだろ?
お弁当をその妖怪さんが持って来たって事は、もしかしたらリクオ君、忘れたのかもしれないし……。
そんなにカナちゃんが気にする事が無いと思うんだけど…

その女の子がリクオ君と一緒に住んでる妖怪さんだと本当の事を言う事が出来ず、私は無難な答えを返した。

「あはは…恋人じゃないと思うよ。多分、知り合い?」
「うん。そーだよね! リクオ君に恋人が居るわけないわよね! でも……」

言い淀み、更に何か考え込むカナちゃんに私は苦笑する。

カナちゃん…、なんでそんなにリクオ君の事気になるんだろう?
うーん。ずっと一緒に居た幼馴染だから、知らない事があると不安になるのかな?
でも、私はもっと昔からリクオ君と一緒に居たけど、リクオ君の知らない面に関して不安を持った事なんて無いし…

カナちゃんの気持ちが判らず苦笑しながらも心の中でまた首を傾げた。


そして1日はあっと言う間に過ぎ、放課後になった。
教室内には人がまばらにしか残っていない。
その中、私は机の上で日誌を書いていた。
その横で頬杖を付いたカナちゃんが日誌を書き終えるのを待っている。
そして時折カナちゃんは、教室の入り口の傍で誰かと話しをしているリクオ君をちらちらと盗み見ていた。
長く待たせて悪いな、と思い私はカナちゃんに声を掛ける。

「カナちゃん、退屈? もうちょっとなんだけど…ごめんね?」
「あ、ううん! 大丈夫よ! でも、あの子…」
「あの子?」
「リクオ君の知り合いだとしても…どこのクラスの子かしら? 記憶にないんだけど…」

カナちゃんはリクオ君が居る方を見ながら呟いた。
あの子って誰だろ? と疑問に思い、私もリクオ君の方に視線をやると、リクオ君と一緒に居るのは旧校舎に付いて来た奴良組の女妖怪さんだった。
リクオ君はその女妖怪さんに何か言い聞かせているようにも見える。

どうしたんだろう? と不思議に思って見ていると、リクオ君が居る方とは反対側の扉がガラッと勢い良く開いた。
その音に、何? と開いた入り口に視線を移動させる。
立っていたのは天然パーマの男の子だった。その男の子は明るい口調で口を開く。

「やあやあ、清十字団の皆はどこかな!?」

天然パーマの男の子は、教室内を見回し、驚いているカナちゃんとリクオ君を発見する。
そしてリクオ君達にツカツカと近寄るとリクオ君の肩にぽんっと手を置いた。

「さあ、名誉隊員の奴良君! さっそくボクの家に行くよ!」

本気で行く気なんだ…と疲れたような表情で、あはは…と笑うリクオ君。
それに気付かず、天然パーマ君はリクオ君と話していた女妖怪さんにも気付き、その女妖怪さんの肩にもぽんっと手を置いた。
そして若干引き気味の女妖怪さんに勢い良く声を掛ける。

「君は確か…及川君! 君も清十字団の一員だ! 呪いの人形の検証に是非来て欲しい! これでこの前の汚名を返上してみせるからね!」

燃える目で熱く語る天然パーマ君に、リクオ君と奴良家の妖怪さんは口元をひくつかせながら、ぎこちなく頷く。
そして今度はカナちゃんと私の方にぐるんと顔を向けた。

「家長さんもいいかい!? おお! 朝倉さんも居るじゃないか! 丁度いい! 君もボクん家に来たまえ!」
「いいかい、って言っても今朝、強制的に決めたんじゃない……。ね、響華ちゃんも行くんでしょ?」

カナちゃんは天然パーマ君を呆れたように半眼で見た後、私の方に振り向いた。
私はカナちゃんも行くならばと、その言葉に頷こうとしたが、ふと朝掛けられたお母さんの言葉が脳裏に蘇る。

『今日はまっすぐ家に帰るんだよ? あんたピーマン食べるの遅いから、遅くに帰ると今日中に食いきれない可能性があるからねぇ』

そう。今日から一週間、夕食はピーマン尽くし。
それを考えると思わず頭を抱えそうになったが、カナちゃんの問いかけるような眼差しに気付き、私は眉を八の字にしながら首を振った。

「ごめんなさい。お母さんからまっすぐ帰るように言われてるの」
「え! 響華ちゃん、行かないの!?」

カナちゃんはどうしよう、と呟くが、リクオ君とその隣に居る女妖怪さんを見ると、ムッとしたような顔になった。

「カナちゃん?」
「私……行ってくるね!」
「う、ん?」

私はカナちゃんが突然怒ったような言動になった事に理由が判らず首を傾げた。

カナちゃん?


その夜、ピーマンと格闘を繰り広げているとカナちゃんから電話が入った。
今度の日曜日、清十字団の皆でリクオ君家に訪問するようになったらしい。

「響華ちゃん、今度の日曜は大丈夫?」
「うん」

土日ならお母さんは居ないので、リクオ君家に行った事はバレないよね、と思い、快く返事をした。
と、電話を切った後、心の中にちょっとした疑問が芽生える。

そう言えばリクオ君の家にはいつも小妖怪さん達が居るんだよね?
天然パーマ君達に妖怪さん達を見せる為に呼んだのかな?
はて?

疑問は晴れる事は無く、そのまま日曜日を迎えた。
と、その日に限って仕事に行くお母さんから注意をされる。

「いいかい。今日は家から出るんじゃないよ」
「え!?」
「かっはは。きちんと言い付け守れば、明日はあんたの好きなハンバーグ作ってやるさ。いいかい? 判ったね?」
「う、ん…」

お母さんは私が頷くのを見ると、微笑しながら頭を撫ぜ、出掛けて行った。
私はカナちゃんがアパートに迎えに来るまで、お母さんの言葉に悩む。
だが、お母さんが帰らないうちに家へ戻ってくれば、バレないだろう、という結論に至り、カナちゃんが来ると、一緒に集合場所に向かった。







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