ふと目を覚ますと辺りは真っ暗だった。
布団の中から目をこすりつつ上半身を起こす。
そして、周りを見回すとそこは自分の部屋だった。

あれ? いつの間に夜?
さっきのって、夢??
ううっ……なんて恥ずかしすぎる夢だったんだろう……
お礼であんな……

項垂れ羞恥に悶えていると隣の部屋からお母さんの声が響き渡る。

「響華。起きたかい? 晩メシ出来てるから食べにおいで」
「あ、はーい」

私は素直に返事をすると晩ごはんを食べに居間へ向かった。
ちゃぶ台の上に乗っているのは、私の大好きなハンバーグがメインのおかずだった。
気分が上昇し、席につく。
と、隣でお酒を飲んでいたお母さんが私の髪を見、片眉を上げた。

「響華、あんたも櫛なんてもん挿す年になったんだねぇ。色合いは地味だが結構似合ってるよ」
「え?」

私はお母さんの言葉に目を瞬かせる。

櫛?

自分の髪を触ると何か固いものを指が捕える。
それを髪から外し、確認するとそれは夢で見た鯉伴さんから貰った櫛だった。

う、え!? じゃあ、『お礼』したのは本当!?
でも、鯉伴さんが子供の私に恥ずかしい事するはずないし……

頭がぐるぐるとしだす。
その中お母さんは何かを視るように目を細める。
と、突然お母さんの手の中にあった盃がパキッと割れた。

「響華。ちょっと出かけて来るよ。付け合わせのパセリもきちんと食べとくんだよ」
「え?」

そう言うとスクッと立ちあがり、お母さんは部屋を出て行く。
もう夜なのにどこ行くんだろう? と不思議に思いつつも私は黙ってお母さんを見送った。

でも、なんだか怖い顔をしていたけど気の所為?
あ。でもパセリは苦手だから、こっそり捨てちゃおう。

私は頬が落ちそうに柔らかくて美味しいハンバーグを食べながら、また鯉伴さんの事をとつとつと考えた。

うん。鯉伴さんが私みたいな子供に恥ずかしい事するはず無いから、鯉伴さんと会話した事自体夢だったんだろうと結論を出す。
そして、鯉伴さんはサンタクロースのように眠ってる私に櫛を挿してこっそり帰ったのだろう、と推測をした。
だって他に贈り物をくれる人はいないのだ。
きっとこの櫛は夢の中で言っていたように入学祝いかもしれない。
私は心が暖かくなるのを感じつつ手の中の櫛を見つめる。

ありがとう。鯉伴さん。







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