代わりじゃない?
鯉伴さんは、もしかして私自身を見てくれてる?
ううん、そんな事あり得ない。
思い出すのは、幼稚園の頃の事。
雨に濡れた鯉伴さんは、月華さんの名前を呼びながら私にキスをした。
そう……、鯉伴さんは私が小さい頃からずっと月華さんと私を重ねて来たんだよね!
そんな急に心変わりするはずない!
絶対、うそ!
信じられない!!

胸が痛くて痛くて、涙がにじみ出て来る。
下唇を噛み締めると腕の中で身をよじり、鯉伴さんの固い胸を両腕で強く押した。

「私に月華さんの姿を重ねるくらい、ずっとずっと月華さんの事を想って来たんだよね!? なのに、なんでそんな事言うの!?」

鯉伴さんの金の目を涙が滲む目で見つめながら、私は血を吐くような声を上げた。

「なんで、なんで……っ、……っっ」

信じ、られない、っ!

嗚咽が喉の奥から零れる。
それに構わず私は鯉伴さんの胸を、両こぶしでドンドンッと叩いた。
涙がいつの間にか流れ出、頬を伝う感触がする。
悲しくて悲しくて、涙が止まらない。
と、ふいに両手首を鯉伴さんの大きな手に捕まれた。
悲しみに震える気持ちのまま、鯉伴さんの端正な顔を見上げる。
鯉伴さんはその金の目に優し気な光を灯らせながら、目を細めた。

「オレは確かに月華を忘れられねぇ……」

ズクンッと胸が張り裂けそうな痛みに襲われる。

痛い。
痛くてうまく呼吸ができない。

「やっぱり……っ」

息が苦しい。
新しい涙がポロッと目から零れ落ちる。

「だがよ……。オレぁ気付いちまった……」

鯉伴さんはそう言うと端正な顔を近づけ、私の眦を舐めた。

なに、を……?
吃驚して目を丸くすると、鯉伴さんはゆるりと笑う。

「オレの中で一番でけぇ存在は、響華だったってな……」

一番、大きな、存在?

金の目が真直ぐに私を見つめる。

どういう、こと?
月華さんが忘れられないって事は、似てる私自身は見てくれてないんじゃないの?
大きい存在って、どういう意味?

意味が判らなくて混乱していると、再び鯉伴さんは口を開いた。

「今は信じねぇでも構わねぇ……。だが、泣かしたくねぇ、と思ったんだ。仕方ねぇ……」
「鯉伴、さ……?」
「愛してるぜ。響華……」

金の目が真直ぐ私を見据える。

あ、い……?

今までとは打って変わったような真剣みを帯びた声音に、胸がぎゅっと詰まる。
目を丸く見開く私を鯉伴さんは、閉じ込めるように深く抱きしめた。
強く抱き締められ、身体が痛くて息が苦しい。
でも、抱き締められた温もりに涙がまたこぼれそうなほど安堵感が広がった。

なんでだろう?
ずっとこの温もりを感じてたい……

「鯉伴さん……」

胸元をぎゅっと握るとそこに顔を埋めた。
だが、そっと耳の横に添えられた大きな手が私の顔を上向かせる。
どうしたんだろう? と疑問が掠める間もなく、ゆっくり顔が近づき薄い唇が重なった。

「んん?」

え? なんで、今、お礼のキス?

意味が判らず涙に濡れた目を見開くとぬるついた厚い舌が唇の入り口を舐めた。
いつも教えられた所為なのか、思わずいつものように薄く唇を開くと、そこからぬちゅりと肉厚な舌が押し入って来る。
侵入して来た肉厚の舌は舌先をぬるぬると口内に擦りつけ、頬の裏、そして歯茎にまで這わされた。
唾液を纏った舌に擦られた所から、いつものゾクゾク感が広がり出した。

「り、んさ、ふぁっ……!」

声を上げようとするとそのまま激しく舌を絡められてしまった。
ぬちゅぬちゅと淫靡な水音を立てながら、それが擦り合される。
そしていつの間にか私の腰に回された鯉伴さんの腕に力が籠った。

「んう……っ、ふ……っ」

こね合された唾液が啜られ、下唇が甘噛みされる感覚に身体に痺れが走り回り力が抜けて来た。
と、何故かそのまま後ろに押し倒される。

「んっ、んっ……あ……」

細い糸を引きながらゆっくりと唇が外されたかと思うと、喉から下へと唇が下がっていった。
濡れた舌が這う場所が熱くて、ビクッと震えてしまう。

「りはんさ……え?」

いつの間にか胸元のボタンが外され、胸元がはだけられていた。
外気にさらされた左胸の赤い頂きをぎゅっと掴まれる。

「んっ」

ビクッと震える胸に鯉伴さんは、ゆっくりと濡れた舌を這わし出した。

「オレの事嫌だったら、逃げちまってもいいんだぜ……?」
鯉伴さんの事が、嫌……?
嫌……じゃ、ない。
嫌じゃ、「ない、け、ど、あっ!」

胸の頂きが鯉伴さんの口に含まれる。
その瞬間、軽い電撃のようなものを感じ、思わず背中を反らしてしまった。







- ナノ -