リクオくんは、鯉伴さんの頭を離すと、突き立てられた刀を軽々と地面から抜き、自分の肩に置いた。
そして切れ長の目を鋭い目付きをした男性の方に向ける。

「オレは関東大妖怪任侠一家奴良組若頭、ぬらりひょんの孫、奴良リクオだ」
「ちなみにオレが2代目総大将、奴良鯉伴てぇってんだ」

鯉伴さんは腕を組むと、リクオ君と同じように鋭い目付きの男性の方へ視線を向け、薄い唇を持ち上げる。
鋭い目付きの男は「”ぬらりひょん”だと……?」と呟き、顔を顰めた。

「へぇ……? ”ぬらりひょん”だったら、どうすんだい……? 教えて貰おうじゃねぇか。なぁ、リクオ」

リクオ君は鋭い目付きの男性に視線を留めながら、少し愉快げな鯉伴さんの言葉に「ああ」と短く応える。
そして鯉伴さんとリクオ君は、鋭い目付きの男性と向かい合いながら緊迫した空気を醸し出した。
と、鋭い目付きの男性は、ふいに私の方へ視線を向けた。

「それじゃあ、そこの女は何だ?」

え? 私?

「あ、人間で……「2代目のお子様だ!」

ん?

後ろの奴良組の小妖怪さんが私の言葉を遮るように口を開いた。
それを皮切りに、妖怪さん達が声を上げる。

「2代目が、大事にされている響華様だー!」
「そうだ、そうだ、若の妹君だー!」

「……は?」

リクオ君が、目を丸くしながら、こちらを向いた。
何故か固まっている様子だ。

あはは、まだ奴良組の妖怪さん達は誤解してるんだね。

苦笑すると、リクオ君は固まりが解けたのか、ぐりっと鯉伴さんの方を向く。
そして右腕を鯉伴さんの方に伸ばした。
切れ長の目を据わらせながら、ぐいっと胸倉を掴む。

「どういう事だい? 親父……」

だが鯉伴さんは、自分の胸倉を掴むリクオ君を飄々とした表情で見下ろすだけだった。

鯉伴さん、鯉伴さん。なんで、リクオ君に違うって言わないの?

我慢出来ずに、「あの、リクオ君……」と声を掛けようとすると、鋭い目付きの男性が口を開いた。

「そうか。じゃあ”ぬらりひょん”に会ったら、と、じいさんから伝言だ。”二度とうちに来るんじゃねぇ。来ても飯は食わさん”以上だ」

そう言うと、私達に背を向け、瓦礫の向こう側へと歩き始める。
鯉伴さんとリクオ君が”何なんだ? あいつ”という風に鋭い目付きの男性の背に目を向けると、鋭い目付きの男性は顔だけこちらへ向け付け加えた。

「その刀、大事にしろ」
刀?

私はリクオ君が肩に置いている刀を見た。

普通の刀のようにも見えるけど……何か特別なものなのかな?

首を傾げていると、あの陰陽師生意気だ、とかオレ達に敵わないクセに、とか周りに居る妖怪さん達が口々に言い出す。
すると、いつの間にか黒いマントを着た青年を付き従えた鋭い目付きの男性は、竹筒を軽く上に掲げた。
周りから、無数の水の塊が飛び、竹筒に集まる。

え? え? これって何?

吃驚していると、鯉伴さんの呟く声が聞こえて来て、私は、はっと傍に居る鯉伴さんを見上げた。

「用意周到なこった……」
用意、周到?
どういう意味だろう?

鯉伴さんの言葉の意味が判らず、首を傾げていると、鯉伴さんの頭目掛けて何かが襲って来た。

「……っと」

鯉伴さんは、懐から刀を出すと、刀でそれを受け止め、弾き飛ばす。

「2代目ぇー!?」
「誰だぁ!総大将を狙いやがったのは!」

奴良組の妖怪さん達は眉を顰めながら、周りを見回した。
そんな中、お母さんの声が上から降って来た。

「響華。あんたこんな町外れで何してんだい?」
お母さん?

私は声が聞こえた方を仰ぎ見た。
半壊している建物の屋上部分から、長い銀の髪を揺らしつつお母さんは現れた。
そしてその横に、金の耳と4本の尻尾を生やした金髪の青年が立っている。

誰?








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