近付いて来た私達に気が付いた首無さんは、鯉伴さんの顔を見ると柳眉を上げた。

「りはんーっ、てめぇ、若を一人で戦わせて何してんだあんたはー!」
「あー……。わりぃわりぃ、文句は後で聞いてやるからよ。機嫌を直せって。そんな怖ぇ顔してっと紀乃っぺにそっぽ向かれちまうぜ?」
「なんでそこに紀乃が出てくるんですかーっ!」

私の腰に片腕を回しながら、飄々とした顔で首無さんと話す鯉伴さん。
と、あぐらをかいて座りつつ怪我をした所を押さえていたリクオ君が、ふいに顔を上げふてぶてしそうな笑顔でこちらを見た。

「親父、勝ったぜ……?」
「最後に油断してたみてぇじゃねぇか……。これじゃ響華ちゃんは渡せねぇな」
「親父のじゃねぇ……!」

ん? 私? 何の事だろう?

話しの流れが読めず、首を傾げていると、後ろにたくさんの足音が聞こえて来た。
気になり後ろを振り向くと、そこにはずらりと奴良組の妖怪達が集結していた。
大型の妖怪から小妖怪まで、奴良家に居た妖怪達が全て出揃っているようだった。

「お? てめぇら、来たのかい?」
「そりゃそうですよ、2代目。総大将のピンチに駆けつけなくてどーするんですか」
「そうだ、そうだ! で、2代目、無事ですかい?」
「陰陽師が襲って来たって聞いたんすが」

鯉伴さんは、奴良組の妖怪達の言葉に目を丸くする。
そして、何か考えるそぶりをした後、苦笑いを零した。

「あぁ、オレじゃねぇ、オレじゃねぇ……。戦ったのはリクオだ」
「へ?」「は?」
「「「若頭がぁ!?」」」

驚く妖怪達の視線の中、鯉伴さんは私の腰から腕を離すと、リクオ君の傍に行き腕を掴み上げ、立ち上がらせた。

「よっと、手酷くやられたじゃねぇか、リクオ……。ボロボロだぜ?」
「うっせぇ……」

憮然とした表情で掴まれた腕を振りほどくと、痛むのか足の怪我を押さえつつ、こちらへやって来た。
良く見ると頬や口元も血が滲み出ている。

そう言えば、硫酸みたいなもので攻撃されたんだよね。
皮膚の爛れが進行してるって事は無いかな?
もし、進行してるようだったら、どうしよう。
爛れを止めるには、どうしたらいいんだろう?
医学の知識なんて全く無いので、対処方が判らない。

心配になり、私はスカートのポケットからハンカチを取り出すとリクオ君の口元に当てた。

「イテッ」
「わっ、ごめんなさい!」

慌ててハンカチを口元から離すが、リクオ君は私の手首を掴むと動きを引き止められる。

リクオ君?

「響華ちゃんが無事で良かったぜ……」
「う、ん。心配してくれてありがとう。鯉伴さんが付いててくれたから、大丈夫だったよ」

安心出来るように笑顔で答えると、リクオ君は眉を寄せた。

「オレが傍に居るんだ……。当然だろ?」

左横から姿を現した鯉伴さんは、片目を瞑りながらさりげにリクオ君の手を私の手首から解いた、
そして、掴まれていた手首を自分の口元に持っていき、薄い唇を軽く押しつけた。

り、鯉伴さんっ!?

何故か鼓動が早くなり、顔に熱が集まる。
と、リクオ君が無言で鯉伴さんの頭をグイッと後ろに押しやった。

「クソ親父……、響華ちゃんに何しやがる」
「そりゃ、もちろん決まってるじゃねぇか……、ちょっとした消……いててて、リクオ、何しやがる、頭がもげるじゃねぇか!ちったぁ、手加減……、うぉっ!?」

そのまま、ぎりぎりと力を込めるリクオ君。と、突然リクオ君と鯉伴さんの間に刀がビィィィンと震えながら突き刺さった。
飛んで来た方向に視線を移すと、そこにはリクオ君に倒されたはずの鋭い目付きをした男性が立っていた。
その男性は鋭い眼光をこちらに向けながら口を開く。

「お前ら……、何者だ?」








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