菅沼さんの家に辿り着き、玄関の横びらきの扉を開けた。
その途端、廊下の奥からバタバタと足音が近付いて来た。
顔を出したのは、清十字怪奇探偵団の皆だった。
カナちゃんが、慌てたように駆け寄って来て私の両肩を掴むと、口を開いた。

「響華ちゃん、どこ言ってたの!? お風呂に行ったっきり戻って来なかったから心配してたんだよ!」
「あ……」

そう言えば、お風呂から上がった後、廊下で佇んで居たら鯉伴さんに呼ばれたんだ。
チラリ、と鯉伴さんを見ると、また巻さんにぎゅうっと抱きつかれていた。

「鯉伴様ー! 寂しかったー! もー、外出する時は私も連れてって下さいって言ったじゃん!」

鯉伴さんは、巻さんを見ながら頭をポリポリと掻いていた。
治まっていた胸の痛みがまた襲って来た。
しかも、さっきより数倍痛い。
ズキズキズクズク、と痛む。
私は何故かそんな2人を見たくなくて、視線を逸らし俯いた。
そんな私の顔をカナちゃんは心配そうな顔をして、覗き込む。

「響華ちゃん? どうしたの?」
「…ううん、なんでもない……」

無理矢理笑顔を作り顔を上げると、カナちゃんは怪訝そうな顔を首を傾げた。
胸の痛みが治まらない。痛すぎて、涙が零れそう。
でも、カナちゃんを心配させたくない。

「本当になんでもないよ? お腹空いてるから、元気ないように見えるのかも」

私は一生懸命笑顔を作り続けた。


そして今私達は、この町に来た時の道を歩いていた。
邪魅退治は終了したのだ。
何も知らない皆は首を傾げていたが、清継君だけは違っていた。

「はっはっはっ。ボクら妖怪ハンターが来たから、恐れをなして退散したんだよ。きっと!」

そうボジティブに捕えている。
流石、清継君だ。
真相を知っているのは、鯉伴さんとリクオ君。そして菅沼さんと私だけだ。
私は顔を上げ、前方を巻さんと腕を組みながら歩く鯉伴さんの背中を見つめる。
まだ胸の奥がチクチク痛い。

なんでだろう?

私はこっそり溜息をついた。
と、後ろから背中をポンッと叩かれる。カナちゃんとリクオ君だった。

「響華ちゃん、疲れたの?」
「それともまだお腹空いてるのかしら?」
「う、ううん。大丈夫!」
「あ! ボク、オレンジの飴持ってるよ!」

リクオ君はポケットから飴を取り出すと、私の手の平に乗せた。
その優しい心遣いに少しだけ痛みが解れたような感じがする。

「ありがとう……。リクオ君」
「っ! え、あ、うん!」

お礼を言うと何故か耳を赤くして私から視線を逸らした。

「?」

首を傾げていると、カナちゃんが違う話題を口にする。

「でも、菅沼さん元気になって良かったわよね。蟹までお土産にくれたし」

私は清継君の後ろをフラつきながら付いて行く島君に視線を移した。
島君は蟹がたくさん入ったダンボール箱を4つも持っている。
菅沼さんがお礼に、とくれた蟹だ。
まだ生きているのか、飛び出た脚がカサカサ動いている。
お土産だ、とお母さんに渡したら、きっと喜ぶ。
でも、実際解決したのはリクオ君だ。

私達が貰ってもいいのかな?

隣のリクオ君に視線を戻すと、すぐに気付いたリクオ君は「ん? どうしたの?」と首を傾げる。

「うん。私達、邪魅の問題の解決に直接関わって無かったのに、蟹貰っていいのかな、って…」
「あはは、気にしなくていーよ!」
「そーよ! 響華ちゃん! 私なんて怖い目に遭ったんだから!」
「「怖い目??」」

私とリクオ君がハテ?と首を傾げると、カナちゃんは真剣な目をしながら口を開いた。

「妖怪雪わらしが居たのよ……!」
「雪わらし?」

雪わらしって何だろう?

更に首を傾げると、カナちゃんは言葉を続けた。

「そう。妖怪雪わらし。昨日の晩ふと目が覚めたら、障子にあの方の影が映っていたの。きっと邪魅の事件を解決したのはあの方だと思うけど、私、あの方を追いかけようとしたのよ。そうしたら……」
「「そうしたら?」」
「急に吹雪が襲って来て……! 絶対あれは、妖怪雪わらしよっ!」

リクオ君は乾いた笑いを零す。
そして力説するカナちゃんから視線を外すと、後ろに居る氷麗ちゃんを見た。
私もつられて後ろを見る。
すると氷麗ちゃんは、口元を手で隠しながらくすくす笑っていた。
ちょっと悪い顔だ。
私はそれに苦笑する。
するとリクオ君とカナちゃんが、私の手をギュッと力強く握り笑顔になった。

「やっと笑った!」
「うん。響華ちゃんは笑顔が一番可愛いわよ!」
「そうだよ!」

2人の言葉に吃驚して目を瞠るが、可愛いという単語がなんだか恥ずかしくなり、顔が熱くなる。

でも、2人共、私の事、心配してくれたんだ……

なんだか申し訳ない気持ちと共に、胸の痛みが無くなり暖かいもので満ちる。

「ありがとう。カナちゃん。リクオ君…!」

私の言葉にまた2人共笑顔になった。

「響華ちゃん! 私もそう思ってますよ!」

はいはい!と後ろから主張する氷麗ちゃん。
私は氷麗ちゃんにもお礼を言った。
ありがとう。カナちゃん、リクオ君、氷麗ちゃん。
友達に恵まれてすごく幸せ。 
胸の奥がすごく暖かくなる。
私は自然な笑顔を3人に向けた。







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