私達はお風呂を頂いた後、菅沼さんの部屋に布団を各自敷いた。
菅沼さんの両隣に巻さんと鳥居さん。そしてカナちゃんの両隣には私と氷麗ちゃんの並びだ。
しかし、そんなに早くは寝付けない。
掛け布団を被りじっとお札の貼られた天井を見ていると、巻さんと鳥居さん。そして菅沼さんの3人が、それぞれお喋りを始めた。

「ねー、学校遠いの?」
「それほどでも……」
「イケメン居るー?」
「どうかしら? あ、そう言えば大人の人が一人居たけど、あの人カッコ良かったわ。先生なの?」

菅沼さんが鯉伴さんに興味を示す。
思わず心臓がドキッと飛び跳ねた。

あ、れ? なんで?

心臓が大きく脈打った原因が判らない。
戸惑う様子の私に気付かない3人は、話しを進めて行く。
菅沼さんの問いに答えたのは鳥居さんだった。

「あ、あれは奴良のお父さんだよ」
「お父さん!? うそっ!」
「チッチッチッ。これがウソじゃないんだよね。でも、鯉伴様に恋しちゃだめだからね。鯉伴様は私のモン!」

巻さんは、自信満々の声で宣言する。
まるで付き合っている彼氏に手を出すなと言う感じの言葉だった。
その言葉に胸がズクンズクン、と痛み出す。

……、もしかして、鯉伴さん、巻さんと付き合い始めたの?

胸の中に不安が渦巻き出した。
その中、菅沼さんが不思議そうな声音で巻さんに問いかけた。

「え? でも、奥さんとか居るんじゃない?」
「それが、奥さん亡くなってんだよね。奴良には悪いケド、本気だし。16になったら、嫁に行くかも!」
「えっ!?」

菅沼さんの吃驚した声が耳に飛び込む。
私は、なんだか胸が複雑で、すごく泣きたいような気分だった。
頭の中で、巻さんの行動を受け入れていた鯉伴さんの姿を思い出す。

鯉伴さん、巻さんの事が気に行ったのかな?
ずっと傍に置きたいって思ってるのかな?

と、隣で静かに眠っていたはずのカナちゃんが、声を掛けて来た。

「ね、響華ちゃん。もう、寝た?」

私は布団の中でモゾリと身体を動かしカナちゃんの方へと向く。

「ううん。起きてるよ。どうしたの?」
「なんだか異様に寒くない?」
「え?」
寒い? 別に寒くないけど……

私は首を傾げ「気の所為と思うよ」と答える。
すると、カナちゃんは、そうかしら? と訝しげな顔をしながら首を傾げる。
がしばらくすると、気を取り直したように口を開いた。

「そう言えば響華ちゃんと一緒に枕並べて寝るの久しぶりだね」
「うん。中学生になってから、お泊りしてないかも」
「そうだ! もうすぐ夏休みでしょ? 今度、泊りにおいでよ」
「うん!」

そして夏休みにはどこか遊びに行こうか? とか話しているうちにいつの間にかウトウトとし、そのまま眠ってしまった。


「どこだ、妖怪ーっ!」
…………、ん?

誰かの叫び声に意識が浮上する。
寝ぼけ眼のまま、目を擦っていると誰かが私の身体に躓き、お腹の上に誰かが倒れ込んで来た。
それと同時に「キャーッ!」とカナちゃんの悲鳴が上がる。

な、に? カナちゃん?

私はパチリと目を開け上半身を起こし周りを見渡すが、真っ暗で何も見えない。
判るのはお腹の上で誰かがバタバタと足を動かしている事くらいだ。

「やっ!」

思わずその足を思いっきり向こうへと押しやる。
と、何故か清継君の声が上がった。

「何!? そっちに妖怪が居るのかい!?」
「いやぁっ! 何ーっ!」
カナちゃん!?
「どうしたの!?」

と、突然パチリと電気がついた。
そこには私とカナちゃんの布団を跨いで横向きに倒れた清継君が居た。
上半身はカナちゃんの方に倒れ込み、足は私の布団の上にある状態だ。
そして清継君の手は、カナちゃんのお腹をムニュッと掴んでいた。

「……」
「おや? 家長さんじゃないか。妖怪の身体かと思ったら、家長さんのお腹だったんだね。はっはっはっ」
「〜〜〜っ、清継君の……、へんたーい!」
「ぐはぁっ」

カナちゃんは枕を掴むとベシッベシッベシッと清継君の顔に叩きこむ。

「ちょっ、待ちたまえ! 家長さん! ボクが一体何をしたっていうんだい!?」
「わぁーんっ、響華ちゃーんっ」

カナちゃんは清継君の問いに答えず、目尻に涙を溜めながら私に抱きついて来た。

お腹、触られちゃったんだね。
清継くん。女の子の身体、なんだと思ってるんだろう。

抱きついて来たカナちゃんを宥めるように背中を擦っていると、巻さんが近付いて来た。

「どしたの?」
「うん。清継君が……」

お腹を触った事を言おうとしたが、私は途中で口を噤んだ。

触られちゃった事、言っても良いのかな?
私だったら、恥ずかしい。
でも、言わないと伝わらないし……

言った方が良いのかどうか迷っていると、巻さんは何かを察した様子で据わった目をし清継君に視線を移した。
そしてズカズカと近寄ると襟首を掴む。

「お前もかぁーっ! 清継!」

そして、拳を握り締めると清継君のお腹に一発決めた。

わわっ、巻さんっ!?

吃驚していると、更に巻さんは清継君をボコボコにのしていく。

怒ってくれるのは嬉しい。
でも、『お前も』っていうのはどういう事だろ?

首を傾げていると、視界の端にボロボロになった島君が目に入ってきた。

………?
なんで、ボロボロ?

不思議に思っていると、鳥居さんが近寄って来、巻さんの怒りの原因を説明してくれた。

「あのね。島君、巻の胸を掴んで揉んでたのよ。2人とも変態だよね」

その言葉に納得する。

類は友を呼ぶっていうけれど、その通りかも……

私は、そう考えながらもまだ抱きついているカナちゃんの背中を撫ぜ続けた。







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