立っていたのは、金の花模様の刺繍が入った紅い着物の上に薄紅の打ち掛けを着た私と同じくらいの年の少女だった。
黒い髪は腰まで有り、目はとても澄んでいてまん丸い。将来きっと美人になるかもしれない。

可愛い子だなぁ……

ぼうっと見惚れていると、少女はニコッと笑った。

「あなた見ないおかおの人ね。どこから来たの?」

私は素直に蔵を指差す。

「あちらのほうなの? じゃあ、おなまえは?」

名前……名前……。なんて名前だったっけ?
えっと、確か……

私は赤ん坊の頃の記憶を必死で手繰り、名前を思い出した。

「椛?」

多分こんな名前だったと思う。多分!

「わあっ、かわいい名前ね! わたし珱。ねえ、椛、中でおはなししましょう!」

珱という少女は、胸の前でぽむっと両手を合わせ、目を煌めかせた。

え? 私、確か双子は不吉だという理由で、この蔵に閉じ込められてたんだよね?
この蔵から離れてこの女の子とおしゃべりしてもいいのかな?

迷っていると、私の両手を掴み、引っ張った。

「珍しいお菓子もあるのよ。ね。いらっしゃい」

私は困惑しながらも、女の子に連れられ、屋敷へと上がった。
その部屋は何本もの燭台に蝋燭の火を灯していた。
和紙の上に綺麗な形をした和三盆のお菓子を女の子は差し出す。
そして、初めは私が質問に答えるような形で話していたが、だんだん私が質問するような形へと変わった。
それに不思議そうに答える女の子。
でも、気にしていては、小さい頃から胸の片隅に抱えていた疑問を解くことは出来ない。
その結果、ここは異世界でも何でもなく、過去の日本だと言う事が判明した。

おかしい。
生まれ変わりとは、過去の人間の魂が未来に転生するというもの。
私はそんな感じで雑誌とかネットで学んだ。

未来の人間の魂が過去の人間に転生するなんて……
って、ちょっと待って?

私はある男の人の臨死体験の話しを思い出した。

そう言えば、あの男の人は魂だけになった時、思っただけで過去にも行け、その事が本当かどうか確かめる為に過去の人に乗り移って、自分の名字をあるお寺に彫ったらしい。
と、言う事は、私、生まれ変わったんじゃなくてこの身体に憑依している状態だって言う事?
でも、きちんとモノも食べきれるし、眠る事も出来るし……

新たなる疑問を抱きつつ、私は珱という女の子と話しをいつの間にか弾ませ、気が付いた時には一緒に眠っていた。


小鳥の声と共に瞼の裏に白い光が射す。
眩しい。
私は薄ら目を開けるが、久しぶりに感じる朝の光の眩しさに、目を瞬かせた。
と言うか、眩しすぎて目が開けられない。
目をぎゅっと瞑り、手で目を押さえていると、突然おばさんの悲鳴が上がった。

「ひっ、珱姫様ー! 素性の判らない娘子と御一緒にお休みに!? 誰ぞ、誰ぞ来て下されー!」

大騒ぎになった。

そして、私の事を知っている人から「忌子の椛様じゃ。どうしてここに」と言われ、その言葉から更に騒ぎが酷くなった。
その中、目を開けられぬまま呆然としていると、ふいに大人から腕を引っ張り上げられ、蔵に逆戻りをした。
暗い蔵の中に帰るとやっと目が開けられ、ホッとする。

でも、お日様の下で目が開けられなくなってるなんて、なんだか嫌だな……

私は慣れた薄暗闇の中で、はぁっと深い溜息をついた。


それから数日後。
私は男の人に蔵から出された。
やはりお日様の下、なかなか目が開けられなくて、手で瞼を押さえながら外に出ると、私はどこか判らない所に座らせられ、知らないおじさんに引き合わされた。
神経質そうな男の人とそのおじさんの会話が始まる。

「今は力無くても珱姫の妹じゃ。きっと将来力を開花させるであろう。」
「それほどの姫を頂いても宜しいので?」
「ホホホ。構わん。構わん。金は十分に貰ったしのう。さっさと持っていくが良い」
「それでは……」

………
って、私、このおじさんに売られるの!?
過去の人身売買だとすると、行き先は………吉原!?

身体中の血がスゥッと引く。

い、や!








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