私は家庭の事情で大学に進学せず、地元の中小企業に就職した18歳の新人OL。
新人だからと言って何もやらないハズは無かった。
お客様への対応。電話応対。そして事務職。いろいろ学ばされ、帰宅するのは毎日20時を過ぎていた。
そんな生活が祟ったのか、ひと昔流行ったというポックリ病になり、私はある日突然職場で倒れた。
そして病院に運び込まれたが、一晩のうちに20キロも体重が減り、その負荷に身体が耐えられず、私の心臓は停止した。

そして気が付くと私は宇宙空間に居た。目の前に青く丸い地球が見える。
どうしてこんな所に居るんだろう?
そう疑問に思うと頭の中に膨大な知識や情報が流れ込み、自分は肉体を脱ぎ捨て意識体だけの存在になっている事が判った。
それと共に自分が意識体として存在しているという事だけでなく、他の様々な知識も頭に流れ込んで来た。
二次元や三次元の有り方。そして宇宙の成り立ちの真相。
そして人間が存在する意味。人間の他に虫や木にも意識が宿っている事だった。
その知識は人間の脳では処理しきれないほど膨大。
だが、肉体を脱ぎ捨てた私の意識はそれを難なく受け止める。
そう。この知識は死んだら皆知る事が出来るが、肉体を持つと脳に入りきらないらしい。
だから、生まれると皆前世の知識も何もかも忘れる。
前世の事を覚えている者は、多分脳が知識を受け入れる事が出来る程の器なのだからだろう。

うん。でもそれは稀だよね。
あ。前世と言えば……

ふいに生きていた時、読みかけていた漫画の事を思い出した。
『ぬらりひょんの孫』。妹が勧めて来た少年漫画だった。
完結しているようだったが、忙しかった私は時間がある時だけ読み進め、やっと8巻まで来た所だったのだ。

うーん? あの続きが気になるんだけど、どうにかならないかな?

そう思った瞬間、目の前の地球に突然意識体が吸い込まれた。

「ちょ、え!? え!?」

そして、また意識が途切れた。


ギィッと木戸を開けるような音と共に、意識が浮上する。そして、瞼を開けると真っ暗闇だった。

ここはどこ?

その問いに、膨大な知識はすぐに答えをくれたのに、今は全く流れ込んで来なかった。
と、ポオッと薄オレンジ色の光が近付いて来た。
そして身体が誰かに抱えられたと思うと知らない女の人の声が耳に入って来た。

「まあ、今日の椛姫様はお泣きになってないわ。本当に偉いですねぇ」

その言葉と共に頭を撫ぜられる。
薄オレンジ色の光で抱き抱えている女性が着物を着ている事が判った。
もっと上を見上げてみると柔和な顔をした人だった。
でも、何故か昔風の髪型をしている。まるで時代劇に出てくるような髪型だ。
状況が良く判らず、心の中で首を傾げていると目の前の女性はおもむろに着物の合わせ目を開き、胸を出したかと思うと私の顔に近付けた。

ちょ、待って下さい! 私、母乳を飲むような歳じゃないから!

そう言おうと口を開くが、そこから出て来たのは「だあ、あ、う」という言葉だけだった。
そして、今更ながらに自分の身体の小ささに気付く。

私、赤ちゃんになってる!?

そして驚愕と共に、意識を失う前地球に吸い込まれた自分の事を思い出した。

生まれ、変わった!?








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