鵺ヶ池の真ん中で身体を浸している羽衣狐は、岩に腰かけている天華を見やった。
そして静かな口調で口を開く。

「天華、お主の子供…会ったぞ。響華と言ったか……。子を成したのじゃな。……妾に内緒で何時の間に愛人を作った?」
「?」

首を傾げた天華に羽衣狐は悔しそうに唇をかみしめた。

「子まで作るとは、妾に対する裏切りじゃ……!」
「あー、ちょっと待ちな? あの子は愛人の子じゃなく、れっきとした夫との子だよ?」
「ほう、夫じゃと? その夫とやらは、どこに居る?」

険呑な眼差しを向ける羽衣狐に天華は銀の髪をポリポリと掻いた。

「ああ、羽衣、知ってるだろ? 私の能力を。それ使った所に居るよ」

と、それを聞いたとたん羽衣狐は忌々しげに顔を歪めた。

「……妾に手が届かぬではないか。せっかく肝を食らってやろうかと思ったに……」

悔しげにギリッと歯を鳴らす羽衣狐に、天華は腕を組みながら軽く笑った。

「ああ、確かにあいつよりも羽衣の方が強いかもだねぇ……」
「!! ならば天華! 今からでも遅くは無い。そやつと別れるのじゃ!」
「……無理だね。自分でもざまぁ無いんだけどねぇ……結構、惚れてんだよ。あいつにね。かっははは」

初めて見る天華の照れ臭そうな顔を見て、自分には引き出せなかった表情を引きだした男に憎しみが募る。

「天華……」

苦々しい表情で羽衣狐は天華を見つめた。
と、天華の横から若い姿をしたぬらりひょんが口を挟んだ。

「おい、おめぇら……ワシの存在を忘れとるじゃろ」
「じじい。まだ居たのか」
「かっははは。昔っから存在感薄いねぇ」
「放っとけ! それがワシの特性じゃ!」

ガウッと噛みつくぬらりひょんを手で制し、天華は羽衣狐をひた、と見つめた。

「さあて、それじゃあ、話し合いを始めるとしようかい?」







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