暗いアパートの中、銀色の髪をした女性が足を組み座りながら、片手で頭を押さえていた。
銀髪の女性。響華の母親、天華だ。
天華は自分の頭を抱えたまま、髪をくしゃりと掴む。
蒼い目には、酷く険呑な光が浮かんでいた。

「あの言葉はダメだったかい……」

自分の忠告通り、娘は一人にはならなかった。
常に周りに誰か居た。
それでも、自分が宿命通で視た通りの事柄へと進んでいる。

「ちっ、この事柄は大きな時流の流れの中にあるって事だねぇ……」

天華は舌うちし、歯噛みする。
そう、視えた場面は違うが、『攫われる』という事柄は同じ事だ。
こうなったら、足掻いてもその流れは止まらない。
下手に手を出せば、捻じ曲がった事柄を修正しようとする力が働く。

今回もそうだ。
嫌な予感がしたので、いつもは使わない宿命通。そう先の世、過去を全て見通す力を使った。
自分の嫌な感は当たるのである。
そして視えたのは、明日、路地裏で子猫を拾おうとして一人になった所を黒い翼を持つ娘に攫われる場面だった。
だから、一人になるな、と忠告したのだがその「一人」という言葉自体、起こりうる事態の核心に触れた言葉だったらしい。
前日の今日、元凶である者に攫われた。
昔からの経験により、断腸の思いで娘を助ける事を断念する。
だが、天華の体から溢れる殺気は止まる事を知らず、次から次へと溢れ近辺一体に流れ出た。

「狸のクソ坊主。身の丈に合わない力を求めると死を早めるよ。」

天華は、明日響華に起こる事を思い、奥歯を噛み締めた。







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