畏れ慄く男妖怪達。そして、しくしくと泣く女妖怪達。
混沌とした様子の店内を見ながら、リクオは小声で良太猫に尋ねた。

「いってぇ、あいつ何者(なにもん)なんだ? ただの妖怪じゃねーのか?」
「あー、若は知らねぇのも無理ありませんよ。天華さまはこの奴良組が出来る前から総大将と懇意にしていた大妖怪です」
「は?」

呆気にとられるリクオをに構わず、良太猫は続ける。

「天華様は気紛れな方でねぇ。ひょこりと現れて力貸してくれ、また姿を隠すんでさぁ。奴良組の大恩人ですよ」
「……うちには入らなかったのかい?」
「組を嫌ってましてねぇ。それが原因で総大将と喧嘩して……」

その時の事を思い出したのか、良太猫はぶるぶると震えた。
そして天華の方に視線をやりながら、言葉を続けた。

「怒らせたらこえー方です!」

その良太猫の様子にリクオは訝しげに首を捻った。
一体、何があったんだ? と。
そして、良太猫が畏れる程の天華の強さに興味を惹かれる。

「一度見てみてぇもんだな……」
「やめて下させぇ、若!!」

慌てて首を振る良太猫を見ながら、リクオは面白そうに口角を上げた。







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