暗闇の中、目の前のガラス窓をコンコンと軽く叩く。
するとカーテンが開かれたので遠慮無く窓を開けた。
と丁度姿を現した舞香が目を見開きながら「うわっ!」と驚きの声を上げのけぞる。

フッ、相変わらず面白い女だぜ。

「よう」
「リ、リクオ君!?」

驚く舞香に構わずオレは窓枠に足を掛けるとそのまま部屋の中に入り込んだ。
そして何故か後じさる舞香に目を向けた。

ドーナツ柄…か
相変わらず色気がねぇパジャマだな……。
だが、その飾り気のねぇところも可愛く思えてきちまう
……いや、オレは舞香の寝巻姿見に来たんじゃねぇ

オレは気持ちを改めつつ腰に手を当て、口を開いた。

「あの後、さっさと先に帰るなんざ、ひでぇぜ。舞香」
「え? あ、だって、お父さんが迎えに来たから」
「それにしちゃあ、一言あってもいーんじゃねぇか?」

文句を返すと舞香はむっとした顔になる。

「ぬーっ、巨乳好きのリクオ君に、何も言う事はないよっ!」

は?
きょにゅう??

一瞬頭の中が空白になる。
そして、別れる前の出来事を思い出した。
ある事無い事、口を揃えて舞香に伝える遠野衆。
あの後キッチリ黙らせたが、気が付いたら舞香の姿は無かった。
日が昇り人の姿に戻り、清継達と合流したがそこにも舞香の姿は無く、聞くと先に帰ったという事だった。

誤解したまま帰りやがって…

ぷいっと横を向く舞香に苛立ち、オレは舞香の両手を掴むと傍のベッドに押し倒した。

「ぬわっ!? な、なに、何!?」
「それ、撤回しろ。オレは巨乳好きでもオッパイ星人でも無ぇ」
「だ、だ、だって、本当の事、でしょ! お風呂の中で……お風呂の中で、淡島の胸じっくりガン見したんだよね!」

ガン見なんかしてねぇ
それに何故か淡島の胸を見ても何も感じなかった。
ここだけはきっちり伝えてぇ!

「違ぇ」
「っ、違わないっ! うー、はーなーしーてーっ!!」

じたばたもがく舞香。

何故オレの言葉が通じねぇんだ?

と、舞香が逃げ出した後、オレからの拳骨を食らった淡島が、頭を押さえつつもニヤニヤしながら言ってた言葉を思い出した。

「もしかして……舞香。嫉妬してんのか?」

顔を近付けて問えば、舞香はきょとんと目を瞠った。

「しっとって、嫉妬?」

おい?

「それ以外に何があるんだい?」
「あー、えーっと、何に対して?」
「は?」

良く判っていない舞香を信じられない思いで凝視する。

もしかして、こいつ、思い切り鈍ぃのか?

と、オレの下で突然赤くなると奇声を突然あげた。

「うおあっ!?」

やっと自覚しやがった

オレは薄っすら笑みを浮かべながら、わざと耳元で囁いてやる。

「舞香。やっと自覚したかい?」
「ちがーうっ! この気持ちと嫉妬は別物! 私は 嫉妬なんてしてないーっ!」

この気持ちっていうのが気になるが、あくまで嫉妬じゃないと言い張る舞香。

意地っ張りな所も面白ぇ

「淡島に嫉妬したから、怒ってんだろ?」

オレは舞香の気持ちを代弁してやる。

「違うったら、ちがうーっ」
「へぇ、それにしちゃあ、動揺してるじゃねぇか」
「そ、そ、それは、顔が近いからー! なんで顔近付けるのー!!」
「そりゃあ、舞香の顔をもっと見てぇからに決まってんじゃねぇか」

見続けてぇ。
こんな面白くて、惹かれる女どこにもいねぇ。

と、少し考え込んだ舞香はオレの鼻に噛みついてきた。

だが甘噛みだからか全然痛くねぇ

オレは目を細める。
愛しさが胸から溢れ出て止まらねぇ……

「ばぁか。好きだぜ」

オレは止まらない想いを自覚しながら、そのまま唇を重ねた。







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