古いアパートの一室で、天華はいつものように円形のちゃぶ台の傍にあぐらをかきながら、酒をゆったりと飲んでいた。
ちゃぶ台の上には空の酒瓶が幾本も並んでいる。
一晩中飲んでいたから当り前だろう。
と、何か感じたのか目を細め壁の向こうのそのまた先を視る。
そして、軽く唇を持ち上げた。

「確かに、坊主は鈍感だねぇ」

そう言いながら白い盃の中の酒をゆらゆらと揺らす。
思い出すのは、その親と祖父。酒飲み友達と喧嘩友達。
両方共、女性からの好意には普通に対応していた事を覚えている。
なのに、坊主は女性から寄せられる好意に全く気付かない。

「本当に誰に似たんだか……」

目を細めながら呟く。

「もし響華が先に坊主を好きになっていたら、どうなってただろうねぇ」

自分の娘の事に思考が傾く。
娘は謙虚だ。
こちらが背中を押したいくらいに。
なので娘が坊主より先に、坊主への想いを募らせても鈍い坊主は気付かないだろう。
しかし、響華も坊主以上に恋愛事に鈍い。
坊主への想いを自覚し始めたのは、最近になってからだ。
坊主が響華に想いを寄せ始めたのは、幼い頃からなのに。
本当に我が娘ながら、鈍い。

「まあ、それは血筋かもしれないかもしれないけどね」

天華は喉の奥でクッと笑った。
自分の母親を思い出す。
おっとりし過ぎていた母親。
恋愛の話しは聞いた事が無いから知らないが、男達の好意に気付くのが鈍そうな性格だった。
響華の遠慮がちな性格も、隔世遺伝だろう。

坊主も響華も鈍感同士。
似た者カップルだ。

「まあ、幸せになってくれれば良い。それが一番さ」

天華は微かに微笑むと、盃をクイッと一気に煽った。







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