『蒼青』天也の女体化5


天也は持っていた双眼鏡を掘り投げると人間離れした跳躍力で、木の枝から校舎の窓ガラスへと体当たりをし、ガラスを突き破った。
静かな放課後の校内に甲高い破壊音が響き渡る。
天也は服に纏わりついたガラスの破片を無造作にふるい落とすと、ズカズカと土足で教室内に侵入し、驚く2人に近寄り妹を害虫から引き離した。

「え!? あ! 突然何するんだ!」
「リクオ君!」

二人は求め合うように腕をお互いに向かって伸ばすが、天也はそれを遮るように響華の腕を引っ張ると自分の後ろへ隠した。
そして背中の響華へ向かって口を開く。

「響華。害虫と一緒に居てはダメだって言っただろ?」
「え? あの……あなたは?」

人間の時の響華には女体化している天也が判らない。
でもそんな人間らしい響華も可愛らしい。
天也は思わず頬を緩ませると、響華の頭に手を伸ばしゆっくり撫ぜた。

「僕だよ。響華」
「ぼく?」

心当たりの無い響華は首を傾げる。
そんな響華に天也はフッと小さく笑った。

「天也だ。今はこんな姿をしてるけど、中身は変わらないから」
「「天也お(義)兄さん!?」」

響華と害虫である少年、奴良リクオの声が重なる。
天也は煩そうに眉を顰めると振り返り奴良リクオをジロリと睨みつけた。

「五月蠅い。君、死ぬ?」
「うわっ、本当に天也お義兄さんだ。あ、はは、ど、どうしてそんな姿に?」
「君に言う必要なんて無いよ」

奴良リクオを冷たくあしらう天也に、響華は恐る恐るコートの端を引いた。

「あの、天也お兄さん……、どうしてここに……?」
「害虫から守る為に決まってる。帰るよ。響華」
「え? 帰るって、え? え?」

混乱する響華を抱き抱えた天也は、身体を妖怪である金狐に変えると窓枠に足を掛け、そのまま飛び降りた。

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